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2009-09-10 07:45
自民に再生・出直しを期待する民意
杉浦正章
政治評論家
この歴史的な総選挙を総括してみたいと思っていたが、その資料となるべき大手報道機関による選挙後の世論調査がほぼ出そろった。衆院選後の調査を詳細に分析すると、共通して実に興味深い投票行動の潮流が見えてくる。一番顕著な動向は、今回の総選挙が「自民党制裁選挙」以外の何物でもなかったことだ。鳩山由起夫の人気でも、小沢一郎の選挙手腕でもなく、ただひたすら自民党をスパンク(尻叩き)した選挙だったのだ。だから政権奪回や立ち直りを期待する調査結果ががきわめて高い。「出直して復権せよ」が民意であった。これを全く理解していない自民党はうろたえて、すったもんだの末首相指名に白紙投票を回避するため、若林正俊などという総裁候補にほど遠い人物に投票する。即座に後継を決めて、戦闘態勢を整えるのが、筋であったにもかかわらずである。
NHK、朝日新聞、読売新聞の世論調査結果に共通して分かるのは、投票行動が、自民党への不満に基づく政権交代であったことである。NHKによると、民主党が圧勝した原因は「自民党政治への不満」が52%で最も多く、次いで「政権交代への期待」が25% となっている。注目すべきは民主党マニフェストへの期待が10%、鳩山への期待はわずかに3%であったことだ。これは読売の調査結果とも完全に一致する。読売は鳩山への期待がやはり3%で、政権公約評価が10%、合計で13%だ。これが物語るものは、とにかく自民党政権を交代させたいという思いが先行して、偶然そこに民主党があったから投票したことになる。
注目すべきは、あれほど民放テレビやコメンテーターが敗北を麻生太郎一人のせいにしたにもかかわらず、調査結果は「敗北が麻生への不満」とする回答がNHK14%、読売17%と、「自民党の政治への不満」(NHK49%、読売32%)、「政権交代への期待」(NHK25%)などと比べて、きわめて低かったことだ。民放テレビの司会やコメンテーターの判断が、こぞって麻生の責任論であったにもかかわらず、有権者はテレビに左右されない判断力を持っていた、ことが明白になった。麻生はいわば歴代自民党政権への不満の“犠牲者”であった。また民放テレビや一部新聞が期待値わずか3%の鳩山礼賛の報道を連日展開しているが、これは“虚像”を選挙後に作って、支持率を上げていることになる。マニフェストの主要項目である「こども手当」について、朝日の調査は反対が49%、賛成31%、「高速道路無料化」も反対が65%と意外な結果だ。したがってマニフェストなどほとんど参考にしない投票行動であったことも分かる。
若い小沢チルドレンがテレビで「選挙後は集会をやっても人が集まらなくなった」とぼやいているが、これは候補に投票したのではさらさらないことも意味している。逆に選挙後、選挙区まわりをしている自民党ベテラン議員への同情は厚いものがあるとも言う。要するに、有権者は不満の“ガス抜き”を終えた気持ちなのだろう。自民党落選議員は時を移さず次期選挙に向けての選挙戦に乗り出すことが重要であることを物語る。その証拠に「自民党立て直しに期待する」はNHKで63%で、「期待しない」の33%の倍である。朝日の場合は「立ち直り期待」が76%で、「そうは思わない」は17%にとどまった。読売も同様に「自民党が再び政権を取ることができると思う」という回答は66%で、「できない」の19%を大きく上回っている。この調査傾向が意味するものは、自民党をスパンクするが、あくまでお仕置きであり、“真人間に”になって立ち直って欲しい、という“親心”が有権者にあることだ。構造的に“根に持って”の投票行動ではなかったことになる。自民党が立ち直れば、支持はかならず戻ることを意味している。自民党が戦略を立て直すには、これほど有り難い傾向はないが、アッパーカットで脳しんとうを起こしたのか、総裁選挙を素早く行えず、またまたメディアの嘲笑をかったりしている。かくなる上は28日の総裁選挙に向けて、みそぎのつもりで新体制作りに邁進するしかあるまい。
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