国際政経懇話会

第267回国際政経懇話会メモ
「米中関係と日本-ワシントンからの報告」

 第267回国際政経懇話会は、古森義久産経新聞ワシントン駐在客員特派員を講師にお迎えし、「米中関係と日本-ワシントンからの報告」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2014年7月1日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「米中関係と日本-ワシントンからの報告」
4.講 師:古森 義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員
5.出席者:32名

6.講師講話概要

 古森義久産経新聞ワシントン駐在客員特派員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

アメリカにとっての米中関係とは

 アメリカにとってはシリア、イラク、イラン、北朝鮮やロシアへの対応が直近の課題だが、中長期で真剣に最大の関心を向ける国は中国となる。しかし、「新型大国間関係」という中国側の造語に米オバマ大統領は追随しているきらいがる。中国はアメリカと対等な大国になろうとしている。しかも、チベット、ウイグルおよび台湾など「核心的利益」みなす領域では中国政府の主張を認めた上での「新型大国間関係」を、中国はアメリカに受け容れさせようとしている。だが、さすがにオバマ大統領はそこまでは受け容れられないとしている。米側にはまた、似た言葉で「G2」がある。「米中2大国による新世界秩序」の意味で、2009年から米側の一部識者が主張してきたが、さすがに現在のアメリカではこの言葉は死語に近くなった。協力と競合、協調と対立、ぎこちない抱擁という表現で米中関係は言い表すことができる。2012年10月、2回目の大統領選挙でオバマ大統領はロムニー候補からの「あなたは中国をどう思っているのか?」との質問に対し、「敵対者であると同時に、潜在的パートナー」と回答した。中国が米国債を大量に保有しているという事情があるとはいえ、オバマ大統領は任期第1期目、潜在的パートナーとして健気なまでの対中宥和外交を繰り広げた。オバマ1期目は、中国に対して既成の国際秩序への参加を誘ってきたが、中国は結局、それを受け容れなかった。中国はWTOに加入したものの、結局、ルールを守らないままだった。

軍事・国防面で押され気味なアメリカ

 中国軍の衛星破壊ミサイルおよび地対艦弾道ミサイルの開発、配備は、アメリカの不信感を高めている。両ミサイルともそのターゲットはアメリカ以外にはなく、中国がアメリカを主目標として大軍拡を進めようとしていることは間違いない。それに対し、アメリカ側は“Air Sea Battle”によって対抗しようとしたが、しかし、国防予算が足りない。社会保障、社会福祉を聖域化していて、削減しづらいため、国防予算が大幅に削減され続けており、十年間で1兆ドルの削減の見通しとなった。オバマ大統領は中国側の善意に期待していたが、皮肉なことにその姿勢がかえって中国を増長させてしまったといえる。

2014年の米中対立は「新冷戦」なのか

 2014年、米中対立は激しくなった。その端緒の原因は、2013年の中国による防空識別圏(ADIZ)宣言である。その結果、アメリカは中国を名指しで非難するようになった。しかも、中国は南シナ海で90mの至近距離まで中国軍艦を米軍ミサイル巡洋艦へ異常接近させたり、ヴェトナムの排他的経済水域(EEZ)で勝手に石油掘削を開始したりしている。中国は「アジアの安全保障はアジア人の手で」と発表し、米軍のアジアからの撤退を遠回しに要求し始めている。このように、中国はアジアでのアメリカ主導の秩序を変えようとしており、アメリカのアジアにおける軍事力の削減および撤退を望んでいる。中国は今や、本来の戦略的意図を達成できそうだと自覚しており、中国に都合の良い新秩序を作ろうとしている。また、中国はアメリカのアジアでの同盟関係、パートナーシップを弱めようと狙い、離間策を仕掛けている。そのために、中国はアメリカの同盟国に対し、一時的に軍事的威嚇を繰り返し、「アメリカは結局同盟国を助けてくれない」という認識を広げようとしている。実際、日本、フィリピンおよびヴェトナムに対し、中国が軍事的威嚇を繰り返しているのは、そのためである。しかも、アメリカは中国との全面戦争を望んでいないため、中国の目論見通り、最終段階になればアメリカによる軍事的介入は抑止され、同盟国はアメリカの来援を期待できないかもしれない。 

そして「日本はどうする?」

 日中間の最大の焦点は尖閣諸島である。中国は明らかに日本の主権だけでなく、施政権も否定してみせようとしている。中国は日本の施政権下にある尖閣の海域に対し、毎日のように領海・領空侵犯を繰り返し、日本の施政権を否定してみせようとしている。中国にとっての尖閣獲得は、中国の防衛線を海岸線からもっと遠方へ移動させることとなり、中国にとっての安全保障上の緩衝地帯を拡げることとなる。また、それは中国による日本への影響力が増すことを意味する。その中国の軍拡の特徴はミサイル増強であり、その中距離ミサイルの照準は日本にも合わせられている。それに対しアメリカは、1987年12月に米ソ間で調印したINF全廃条約に基づいて中距離核ミサイルをすべて破棄してしまっている。もし、有事に日米同盟に頼れないとなれば、日本はどう対応すべきか、それを日本は今からよく考えておくべきである。


(文責、在事務局)