国際政経懇話会
第266回国際政経懇話会メモ
「現地で見た韓国・北朝鮮の動向」
第266回国際政経懇話会は、武貞秀士拓殖大学大学院特任教授を講師にお迎えし、「現地で見た韓国・北朝鮮の動向」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2014年6月3日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「現地で見た韓国・北朝鮮の動向」
4.講 師:武貞 秀士 拓殖大学大学院特任教授
5.出席者:39名
6.講師講話概要
武貞秀士拓殖大学大学院特任教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
韓国民の反日感情の背景
2011年6月から2013年2月まで韓国・延世大学で教鞭をとり帰国した。今年4月以降、旅客船セウォル号沈没事故やソウル地下鉄事故等が連続して発生したが、それらの事故の原因の一つとして考えられるのは官民の癒着による弊害である。「日本に追いつき、追い越せ」という姿勢を重視し過ぎた結果、社会全体が経済的利潤を優先して、安全を疎かにしてしまった。韓国では6月4日に全国統一地方選挙が行われるが、政権発足から1年が経過した朴大統領に対する中間評価となる。上記事故への対応の不手際等で、朴槿恵政権は韓国内で強く批判されており、選挙結果に影響するだろう。朴槿恵大統領については、その反日ぶりが顕著だが、その日本批判は中国との共闘で繰り広げられていることが特徴的だ。このようになった背景には、もちろん中国が台頭して、韓国を経済、安保の両面で援助可能になったこともあるが、もう一つの原因としては、日本の存在自体の低下があった。とくに韓国内においては、「日本は東日本大震災によるダメージで沈没するから、今、一気に日本叩きを行えば、韓国には薔薇色の未来が訪れる」と勘違いしている向きさえある。金日成が建国の理念としたような華々しい「抗日革命闘争を経て建国する」という経験の無い韓国人には、「大韓民国が存在する限り、反日であり続けなければならない」「経済だけでなく安保、五輪に至るまであらゆる分野で日本に勝たねばならない」というプレッシャーがある。ただし、それは「日本」という国に対する韓国人の集合的感情であって、韓国滞在中ひとりの「個人」としての自分に対する嫌がらせやまして敵意などを感じたことはない。
日朝政府間協議の現状と展望
北朝鮮は、金正恩第一書記のもとで日本との日朝協議を進めて関係改善をする意思を示してきた。3月の日朝赤十字会談から5月のストックホルムでの日朝政府間協議に至るまでのプロセスで、「拉致被害者の調査」「被害者の日本への帰国」「経済制裁の緩和」等を協議した。日朝合意は、北朝鮮が国際社会でのイメージ改善と、経済再建を推進する過程で妥結に至ったものだ。日本は現在、北朝鮮に対し2年毎の経済制裁延長を行っており、日朝間では輸出入ができない状況となっている。北朝鮮には日本がこの経済制裁を緩めることで、制裁緩和の輪が国際社会に拡がり、経済困難打開に資するという思いがあるだろう。拉致問題調査のため、特別調査委員会設置に合意したが、この特別調査委員会は「特別の権限」が付与されている。金正恩第一書記がトップダウンでお墨付きを与えていると見てよい。拉致問題の調査結果を日朝で共有すべく、指導者がリーダーシップを発揮するということだ。北朝鮮は拉致問題解決を本気で考えていると見てよい。
北朝鮮の核・ミサイル開発優先路線は不変
張成沢粛清事件などもあり、2013年以来中朝関係は冷却しているとの説が有力であるが、その証拠は無い。今年1月から4月まで、中国の対北朝鮮・石油輸出額統計が空欄になっていることは事実だ。1月から3月の間、北朝鮮の対中国輸出は2・8パーセント増だった。昨年春から張成沢の身辺調査が始まったが、中朝貿易額は2013年、史上最高額の65億ドルとなった。朝鮮労働党と中国共産党あるいは朝鮮人民軍と中国人民解放軍の緊密な関係には変化は見られない。北朝鮮の「核兵器と経済再建の並進路線」にも変化はない。金正恩は効率を重視して「彩のある社会」建設を目指しており、首都平壌では携帯電話が240万台普及し、北朝鮮全人口の10人に1人が携帯電話を保有している。海外からの投資を誘致し、観光客を増やし、外貨獲得策を奨励している。ただ、北朝鮮にとっての最終目標は、北朝鮮主導の朝鮮半島統一だ。射程距離12,000キロメートルの大陸間弾道ミサイルを完成し、そのミサイルに搭載する250キログラム程度の核弾頭50発前後を配備することに北朝鮮は執着している。アラスカにある米国のミサイル防衛の網の目をかいくぐり、ニューヨークおよびワシントンを弾道ミサイルの射程内におさめれば、朝鮮半島有事のときアメリカは軍事介入を放棄すると踏んでいる。そのとき、北朝鮮は戦術核兵器を片手に、中立化したアメリカを横目に韓国を統一できると計算している。それが米朝国交正常化と核兵器開発と北朝鮮主導の統一が一体となった北朝鮮の核戦略である。クリミア危機で対ロ軍事介入を諦めたアメリカを見て、北朝鮮はいよいよその路線の正しさを確信しているであろう。核・ミサイル開発は続いていても、6か国協議のなかの作業部会である日朝協議を再開することは問題ない。日本は拉致問題解決の糸口を掴んでいる。
(文責、在事務局)