国際政経懇話会
第265回国際政経懇話会メモ
「エコノミストから見た日本外交」
第265回国際政経懇話会は、吉崎達彦双日総合研究所副所長兼チーフエコノミストを講師にお迎えし、「エコノミストから見た日本外交」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2014年5月20日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室(チュリス赤坂8階803号室)
3.テーマ:「エコノミストから見た日本外交」
4.講 師:吉崎 達彦 双日総合研究所副所長兼チーフエコノミスト
5.出席者:19名
6.講師講話概要
吉崎達彦双日総合研究所副所長兼チーフエコノミストの講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、オフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
日中関係
現在、日中関係は「尖閣諸島」及び「歴史」問題で紛糾しており、首脳間交流が途絶えている。そのため、日中関係は一見「政冷経熱」から「政冷経冷」となってしまったかのように見えるが、経済活動と人の交流は依然として続いており、必ずしも「経冷」ではない。2012年と2013年を比べてみても、対中輸出が9.7%、輸入が17.7%増えており、投資も74億ドルから70億ドルへの微減に過ぎない。また、昔の方が日中関係は良好だったかのような誤解を抱かれ易いが、「1980年代に日中関係が良好だった」と言っても、自民党の経世会と中国共産党が上手くやっていたからであり、それは政治家レベルでの話に過ぎなかった。むしろ、経済に関しては当時よりも現在の方が関係が良好であり、貿易に関しても輸出入量共に増加している。ちなみに現在、日本が中国から輸入している商品のうち、通信機(スマホ及びタブレット型端末等)は2兆円/年にのぼる。また、日本から中国へ輸出している商品のうち、科学光学機器(スマホの材料等)は8000億円/年にのぼる。国際結婚数も比較にならない程増えており、1万2000件/年ある。
エコノミストからの視点
私はかなり前から経済・金融界と外交・安全保障界の間に距離のあることを感じている。経済・金融の視点を持つ専門家は外交・安保の視点に欠けており、逆も又然りである。しかし、私の所属する商社業界では経済・金融と外交・安保を分けずに、大雑把に物事を見通すという習慣がある。アジア安全保障上の最大の問題がアメリカ合衆国の財政問題であるように、左記双方の視点が無いと、特に安保問題は正確には見通せない。アメリカは2009年から年間1兆ドルを超える財政赤字であり、当時から軍事費がカットされて、アジアの安保まで手が回らなくなることが危惧されてきた。実際、軍事費は「強制削減」されることとなり、アジアの安保は不安定な状況となりつつある。また、クリミア問題で、ロシアが怖れられているが、果たして、ロシアは怖れられるような大国なのだろうか。これも経済・金融と外交・安保双方の視点で見れば、違う見方ができる。現在のロシアが世界のGDPに占める比率は3%以下であり、G7及びNATOを相手にして戦える程の国ではないことが解る。ロシアは昨年の経済成長率が1%なのに対して、インフレ率が6%もあり、経済政策も失敗している。併合先のクリミア半島及び併合予定のウクライナ東部の維持費及びそこで暮す住民の生活水準をロシア並みに引上げるには、相当な費用が必要であり、このままだとロシアは経済制裁を科さなくても、充分財政的に厳しくなる。プーチン大統領は何らかの形で幕引きするのではと思う。
日本外交の長期ビジョン
日本外交の長期ビジョンにはA案とB案がある。A案は「日本は超大国の端くれであり、国際的な責務を果すべし」という、どちらかと言えば自民党の案であり、今、急速にこのA案への巻戻しが起きている。A案では、日本は世界第3位の経済大国で、リーダーとしての役割があるという現状認識であり、「普通の国」を目指して集団的自衛権の解釈変更に取組んでおり、また、日米関係を外交の基軸に据えている。それに対しB案は「日本は衰退過程にあることを自覚し、抑制的な外交を展開すべし」という、どちらかと言えば民主党の案である。「日本はミドルパワーである」という現状認識であり、国際貢献は非軍事に限定し、なるべく憲法の範囲内でという方向性になる。民主党政権の失敗は、このB案を、突然準備なしに始めたことではないだろうか。鳩山元首相の「東アジア共同体」構想等、日米同盟を軽視した外交を突然始めた結果、中韓に領土問題等で付け込まれてしまった。安倍首相は急速にA案へ巻戻したものの、中韓は今度はそれを「日本の右傾化」であると喧伝している。現在の安倍政権はA案で外交が上手くいっているが、アベノミクス失敗のシナリオ等も想定し、B案への移行という事態もシミュレートしておくべきである。
(文責、在事務局)