国際政経懇話会

第257回国際政経懇話会
「憲法改正の動向とその行方」(メモ)

 第257回国際政経懇話会は、西修・駒澤大学名誉教授を講師に迎え、「憲法改正の動向とその行方」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年7月25日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「憲法改正の動向とその行方」
4.講 師:西 修 駒澤大学名誉教授
5.出席者:17名

6.講師講話概要

 西修駒澤大学名誉教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

日本国憲法をめぐるいくつかの神話

 日本国憲法については、「世界で唯一の平和主義を定めた憲法」と言われている。だが私が世界各国の憲法を比較研究したところ、成文憲法典を持つ188か国中の158か国が平和政策推進や侵略戦争の否認など何らかの平和主義を標榜する条項を持っており、世界で「唯一」とは神話に過ぎないことが明らかだ。1990~2012年に制定された100か国の憲法の条文を見ると、「知る権利」を56%、「環境権」を90%が規定する一方、「平和主義」も98%が定めている。この平和条項を有する諸国を含め右100カ国の憲法は、すべて国家緊急事態対処について定めており、平和条項と緊急事態条項がセットであることは、世界の常識である。また多くの憲法が国防・兵役の義務を定めている。そして日本国憲法は、改正の難しさもあって、この188か国中で古いほうから数えて14番目で、すでに「世界最古」に属するものとなっている。もはや「新憲法」という呼称に相応しくないのが実態である。一方、ドイツは連邦と州との関係条項等の関係から改正が増えるという事情はあるものの、すでに59回も改正を行い、フランスの1958年憲法は24回改正、2008年に47か条を大改正した。ちなみに、日本国憲法を審議した1946年8月24日の国会では、日本共産党の野坂参三が「平和主義は空文」で「自衛権を抛棄して民族の独立を危うくする危険がある」ものとして反対演説をしたことに言及しておきたい。改正条項について「日本国憲法よりも米国憲法等の方が厳しい」と指摘する人がいるが、事実に反する。米国の定める議会の3分の2とは出席議員の3分の2のことであり、これと定足数が定員の過半数であることを掛け合わせれば、実際には総議員の3分の1超で発議できると言うのが事実である。またドイツは両院で3分の2とされているが、3分の2の賛成が得られれば、さらに国民投票にはかける必要はないとされている。

96条の改正先行と「国民主権」の行使

 今次参院選の結果、参院で3分の2の賛成を確保する上で、公明党20議席の協力が不可欠なものとなった。世論調査によれば、憲法改正自体には広汎な支持が集まっているが、憲法改正に関する96条改正に限れば慎重意見が強く、公明党もこれに反対している。私自身は96条を先に改正しても問題はないと考えている。その理由は日本国憲法が定める「国民主権」は、現状では参政権の行使を除き、「行使」する場がないことにある。現状では改正に反対する国会議員が各院で3分の1を一人でも上回れば、国民による主権の行使である国民投票に対する遮蔽物となりうる。「国民」の意思をどう汲み上げるかが問題だ。国民による主権の行使を取り戻し、国民主権の本旨により近づけるべきだ。また、2007年の国民投票法を可決するため方々に配慮した結果、多くの附則がついており、その中で特に「3つの宿題」が手付かずとなっている。投票者年齢の18歳への引き下げ、公務員の運動制限、憲法改正以外への国民投票の拡大がそれだが、私は今すぐ18歳に引き下げなくとも良く、後の2つも引き続き検討で良いと考えている。

その他の改正上の重要な項目

 まず9条改正だが、公明党が「自衛隊」は認めるものの、「国防軍」には消極的で、安倍首相がどう説得するかだ。つぎに自民党憲法改正草案の求める「国家緊急事態条項」だが、人権の一時的な制約・停止も規定することになり、論議を呼ぶことになるであろう。みんなの党、維新が主張している「統治機構の変革」では、一院制、首相公選制、道州制(地域主権)が主要な論点となる。私は、ポピュリズムとなるので首相公選には消極的だ。また地域「主権」という言葉にも引っかかるものがある。国と地方の協力の仕方を考えるものにしないと、国家がバラバラになるばかりだと思う。最後に公明党の主張する「加憲」だが、具体的ではなく、条文を示して議論する必要があろう。朝日、毎日等のマスコミの「護憲」勢力は非常に強く、これにどう対抗して、国民に訴えてゆくかが問題である。憲法改正は国民投票に付すということを現実的に考えれば、その取り組み方は、オール・オア・ナッシングではなく、問題ごとに優先順位をつけてゆく必要があろう。また、報道によれば、集団的自衛権の行使に関しては、8月に安保法制懇が招集され、秋には憲法解釈の改正がなされるのではないかとされている。日米同盟の信頼性を担保するうえで、重要な前進である。

(文責、在事務局)