国際政経懇話会

第255回国際政経懇話会
「日本のエネルギー政策の現状と課題」(メモ)

 第255回国際政経懇話会は、豊田正和日本エネルギー経済研究所理事長を講師に迎え、「日本のエネルギー政策の現状と課題」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2013年5月15日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本のエネルギー政策の現状と課題」
4.講 師:豊田正和 日本エネルギー経済研究所理事長
5.出席者:25名

6.講師講話概要

 豊田正和日本エネルギー経済研究所理事長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

エネルギー政策に係る3つの環境変化と主要国のエネルギー政策

 ここ数年、エネルギーに係る3つの環境変化が起きており、各国は各々エネルギー政策の転換を余儀なくされている。第一の変化は、「アラブの春」およびイラン核開発問題等による中東情勢の不安定化とそれに伴う原油価格の高止まりである。石油価格は、長期トレンドに照らして現在の需給関係から試算すると1バレル70ドル程度が適当だが、実際には中東情勢の不安定化という政治的要因により、30ドル程度が上乗せされた100ドル前後で推移している。
 第二の変化は、シェール革命によるガス・石油の技術的回収可能量の増加である。シェール革命には、現在、楽観論と悲観論が併存している。在来型と比べ倍以上の技術的回収可能量を確保しているOECD Americas(米、加)等は、楽観論の立場にあり、化石燃料は有限だというピークオイル論を否定できるとの指摘すらでている。一方で、悲観論の立場には、その背景に、生産に結びつかず撤退したポーランドのケースや、開発が遅々として進まない中国のケースが念頭にある。また、シェール革命は、産業競争力に影響を与える経済的問題に加え、地政学的な問題も孕んでいる。すなわち、地政学的には、欧米の中東へのエネルギー依存の低下の結果、特に米国の対中東の安全保障への関心の低下の可能性を示唆している。そうした中で、エネルギー自給率が4%と極めて特異な状況にある日本はシェール革命を好機と捉え、積極的に中東地域への関与を強め、世界のエネルギー安全保障に対する貢献度を高めていくべきである。
 第三の変化は、3.11福島原発事故である。事故直後の2011年4月に米国の大手世論調査会社Gallup Internationalが日米独仏露中韓7カ国で行った原子力の信頼性に関する調査によると、すべての国で原子力を支持するシェアが減少した。しかし、事故の前後で原子力利用における賛成派と反対派のシェアが逆転したのは日本だけであり、もとより反対派が多数を占めていたドイツを除き、その他5カ国では賛成派が反対派を上回っている。主要国における原子力政策は、安全性に万全を期すため若干のスローダウンはあるが、総じて大きな方向転換はない。むしろアジアにおいては、安全保障、温暖化、コストという観点から、その維持・拡大傾向にある。また、自給率低下に直面している英国は、電力の自由化を含む市場メカニズム中心主義の修正を迫られており、現在、一種の固定価格買取制度の導入等による原子力の維持、拡大が検討されている。

日本のエネルギー政策の転換:「3E」から「3E+S+M」へ

 福島原発事故を契機とし、日本のエネルギー政策は、「3E」から「3E+S+M」へと視点が転換してきている。「3E」とは、エネルギー安全保障(Energy Security)、環境(Environment)、経済性(Economic Efficiency)であり、福島原発事故後、一般的には、これに安全性(Safety)が加わったが、さらにマクロ経済への影響(Macro Economic Impact)も考慮する必要がある。
 特に、安全性に関しては、安全神話を捨て、事故が起きうることを前提とした深層防御を徹底し、以て日本の原子力の信頼性を回復しなければならない。そのためには、国際標準に沿った安全基準の確保や、米国原子力規制委員会(NRC)や英国原子力規制庁(ONR)のような独立した規制機関の設置・拡充、放射線リスク低減のための適切な防御対策の採用等が重要となる。
 また、環境に関しては、米国や中国など主要国も参加し、効果的に温暖化ガスを削減することを目指す、新たな枠組みの構築を日米で主導すべきである。そのためには、CO2絶対量の削減ではなく、エネルギー原単位の改善方式や、法的拘束力に拘らないAPEC的なピア・レビュウ方式等、現実的な枠組みを堂々と主張していくべきである。

日本のエネルギー政策の課題

 現在、日本が抱えるエネルギーに関する政策課題としては、第一に、原発再稼働とエネルギー・ミックスの早期決定がある。前政権は、エネルギー・ミックスに関し、原子力、再生可能エネルギー、火力、コジェネレーションの比率が異なる3つの選択肢を示したが、徹底したマクロ経済への影響分析を行い、実質GDP等へのマイナスの影響が最も少ない選択肢(原子力比率20~25%)を選ぶべきである。
 第二に、2012年7月に始まった全量買取制度により、現在再生エネルギーの利用が急増しているが、その導入が増えるにつれて、買取のコストも増加していくため、買取価格の引下等制度の見直しが課題となる。現に、ドイツでは仕組みの見直しが迫られており、スペインでは全量買取制度を凍結している。
 第三に、北東アジアにおけるエネルギー分野での協力強化がある。具体的には、まず省エネルギー技術の提供である。インド、中国、ロシア等、日本の7分の1にも満たないエネルギー効率の国々に、省エネの技術を公共財としてインフラ輸出という形で提供することは、国際社会全体のエネルギー需給の逼迫を緩和し、ひいては日本の国益にも資することとなる。また、LNG貿易における「アジア・プレミアム」の解消である。LNG価格は、液化・輸送コストを考慮しても特に日米間で3~4倍もの開きがあるが、この問題は日中韓の協力なくしては解決できない。さらには、原子力分野での協力である。原子力の安全スキーム、技術、文化をアジア諸国間で共有しなければ、日本をはじめとするアジアの安全は守れない。

(文責、在事務局)