国際政経懇話会

第251回国際政経懇話会
「世界の中の日本経済:その現状と課題」(メモ)

 第251回国際政経懇話会は、前田栄治日本銀行調査統計局長を講師に迎え、「世界の中の日本経済:その現状と課題」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年12月5日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「世界の中の日本経済:その現状と課題」
4.講 師:前田 栄治 日本銀行調査統計局長
5.出席者:21名

6.講師講話概要

 前田栄治日本銀行調査統計局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

日本を取り巻く世界経済状況

 日本の国民総生産(実質GDP)は、2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災の際に大きく減少したが、その後ゆるやかに持ち直してきた。震災復興に関する公的支出が増加し、この予算が日本経済全体を支えており、他方で国内の民間需要も持ち直してきた。民間需要持ち直しの背景には、リーマンショック後からの復元力、団塊世代の活発な消費活動、企業による耐震強化や新エネルギー開発の設備投資などの要因が考えられる。一方で、輸出が減少しており、これが景気の足を引っ張っている。世界経済に目を向けると、ヨーロッパの債務問題に引きずられて世界経済が減速しており、企業は景気の先行きに対して不安を抱えているため、設備投資が落ち込んでいる。また、中国の過剰投資によってアジア全体の需給バランスが崩れ気味である。さらに、円高の影響もあって、日本企業の競争力は低下している。中国経済は年10%を超える高度成長から安定成長に移行しつつあり、今後は精々年7~8パーセントというところであろう。なぜなら、農村部から都市部への人口流入が止まってきているためで、これは高度経済成長後の日本でも起きた現象で「ルイスの転換点」とも呼ばれる。アメリカと中国の景気は来年春以降には緩やかに回復すると思われるが、中国の過剰設備の問題は暫く残るとみられるほか、欧州経済については慎重にみざるを得ない。

日本経済が抱える課題

 世界との競争の中で日本経済が生き残るためには、その実力を向上させなければならないが、日本はそもそもグローバル化の潮流に後れをとっている。新興国では需要が拡大しているにも拘わらず、日本はその需要を十分に取り込むことができないでいる。円高の影響も大きいが、それ以上に本質的なのは、日本経済が差別化した品質の商品(いわゆる『売れる商品」)を開発する能力において遅れをとるようになってきているからである。エレクトロニクス分野がその典型例だ。これを克服するためには、内外の直接投資を増やし海外のリソースをさらに活用していくとともに、自由貿易比率を上昇させることが重要である。また、日本経済のもう一つの大きな問題は、人口減少が大きく影響し、今後ますます働き手と国内需要減少する可能性が高いことである。働き手としては、女性の社会進出をさらに促す必要があり、女性の知恵を活用することで生産性を高めることも可能となる。日本の企業では、国際的にみて女性の管理職の比率が極めて低く、同様の問題を抱える韓国では、女性を活用する方向に制度を変えている。女性の社会進出によって出生率がいっそう低下するとの危惧の念もあるが、国際的にみれば、女性が働きやすい環境を整えれば、出生率の維持は可能だ。需要面では、企業側の掘り起こしもあって高齢者の消費が増えていることはよい兆しだが、一方で、若年者層の消費が弱い。財政と社会保障の一体改革を実現して、若年層の将来不安を和らげ、消費意欲を刺激する必要がある。

日銀が目指すべき金融政策

 金融政策の波及経路の第一段階は、企業や家庭に対して緩和的な金融環境を作り出すことであり、第二段階は、それを踏まえて企業の投資や家計の消費を活性化させることである。金融緩和は、まず短期金利の「引き下げ」によって実施するが、日本は20年近くに亘りほぼゼロ金利政策を採っている。そのため、更なる金融緩和策として、国債、社債、ETF、REITなどの「資産買入等の基金」を積み上げ、長めの金利やクレジット物の金利を低下させるとともに、「成長基盤強化支援」を実施し、成長分野の産業に対する金融機関の貸出を促すよう働きかけている。これらによって、日銀の資金供給量は大きく拡大している。日銀の金融政策は、今後も必要であれば緩和をするスタンスである。為替に関しては、日本の輸出企業の競争力からすれば、円安になった方が望ましい。ただ一方、原発問題によるエネルギー不足で約3兆円もの化石燃料を追加的に輸入している現在、円安になれば電力料金が上がり、国民の負担が増えるという問題もある点には注意が必要である。また、消費者物価に関しては、急な物価変動は日本経済にとって悪影響を及ぼすリスクもあるので、当面は1%の上昇を目標としている。

(文責、在事務局)