国際政経懇話会
第247回国際政経懇話会
「日本の問題意識:問われる日本のエネルギー戦略」(メモ)
第247回国際政経懇話会は、第36政策提言「グローバル化時代の日本のエネルギー戦略」の発表というタイミングを捉え、政策委員会における本提言の起案作業に深くかかわった伊藤憲一日本国際フォーラム理事長・政策委員長と、島田晴雄千葉商科大学学長を講師として招き、「日本の問題意識:問われる日本のエネルギー戦略」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2012年8月2日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本の問題意識:問われる日本のエネルギー戦略」
4.講 師:伊藤 憲一 日本国際フォーラム理事長・政策委員長
島田 晴雄 千葉商科大学学長・日本国際フォーラム政策委員
5.出席者:20名
6.講師講話概要
伊藤憲一日本国際フォーラム理事長・政策委員長、島田晴雄千葉商科大学学長・日本国際フォーラム政策委員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
伊藤憲一日本国際フォーラム理事長・政策委員長
第36政策提言「グローバル化時代の日本のエネルギー戦略」は、6月18日野田佳彦首相に提出されるとともに、6月20日には和英4紙に新聞意見広告の形で発表されたが、賛否両論の立場から多くの反響があった。批判・反対のコメントには「反原発」の結論が先行した感情的なものが多く、説得力のあるものはほとんどなかった。他方、支持・賛成のコメントの中には「提言のポイントが10項目もあり、論点が分散し、一体何を言いたいのかが、かえって分かりづらい」との指摘があった。今般、4つの事故調査報告書(政府、国会、東電、民間)が出揃ったが、今後の課題は、これらの報告書の指摘を踏まえて、独立した規制機関である「原子力規制委員会」を無事スタートさせることであると思う。過去の安易な「安全文化」は確かに反省しなければならないが、だからといって「100%の安全」を求めるのも、また安易であろう。たとえば、食品の放射性物質の安全基準について、欧米が1200ベクレル以上としているなかで、日本は100ベクレル以上としたが、その結果日本自らが東日本産食品の風評被害を煽り立てていることになっている。過去の大気圏内核実験でヒロシマ型原爆の何十万発分の核爆発が実施されていることも、事実としては認識しておきたい。8月末までに政府は国家戦略としての「エネルギー基本政策」を策定し、2030年における原子力の比率を「ゼロ」、「15%」、「20~25%」の3つの選択肢から選びたいとしている。「ゼロ」は問題外で当て馬だと思うが、全国の意見聴取会での意見表明申込者の7割はその「ゼロ」を支持しており、国民全体がややヒステリック状態に陥っていることは否めない。「15%」は、「今後いっさいの原発の新増設を認めなければ、18年後には原発の比率は15%になる」との予測を根拠にした見解であり、将来的には「ゼロ」を展望している。「20~25%」は、万全の安全対策を行ったうえでの新増設を認めるという見解である。興味深いのは、「ゼロ」案には実質的に「火力推進」案になる側面が、また「20~25%」案には実質的に「再生エネルギー推進」案になる側面があることである。原子力平和利用に関して、日本は、世界トップクラスの技術と人材を持っており、その日本が脱落しては、今後の世界全体の原発の安全性を保証しきれない。国際社会への責任、義務、貢献としても、日本は、将来にわたってその原子力平和利用の技術、人材を確保すべきである。
島田晴雄千葉商科大学学長
本提言は、国際的なエネルギー事情を踏まえて、広い視野に立ったものであり、議論はなかなか大変だったが、時間が経って、やや冷静な議論ができる環境になってきた。「安全神話」に対して大いに反省しなければならないが、「100%の安全」が逆の弊害を生むとの伊藤理事長の指摘に同意する。1999年のJCO事故後、当時の通産省が30億円を投入し、原発事故対応ロボットの研究を始めたが、「この研究を続ければ、日本の原子炉には事故を起こす可能性があるように、世間から思われる」ということで、研究は中止され、このため放射線がロボットの人工知能に与える影響に関する知識などがなかった。昨年6月、小柳栄次千葉工業大教授は、福島第一原発に日本製として初めてロボットを投入するにあたり、パソコンに原子炉と同じレベルの放射線を浴びせ続ける実験をしたとの話を聞き、「安全神話」がいかなる実害をもたらしていたのかがわかった。野田政権の原発に対する行動は正しいと思うが、政府は、シビル・アクシデント・マネジメントの遵守、毎日の訓練、本社と現場との意思疎通、海抜30m以上の非常電源設置を電力会社に徹底させる必要がある。また、全国54基の半分以上を占める築40年以上の原発を全部建て替えると、20兆円かかると言われているが、エネルギー供給のために必要な措置なのだから、実行すべきである。今日の安全対策は人知を尽くしているかと言うと、尽くしていない。「危険だからこそ、徹底的な安全対策を図る」という安全戦略が必要だと思う。政府のエネルギー基本政策の「いつの時点で何%にする」というのは、現実的な戦略のように聞こえるが、それでよいのか。国民にとって一番重要なのは、経済、人口、技術開発などの諸資源を用いて良い生活をすることであり、そのためにどういうエネルギーの組み合わせをするかは、経済戦略とエネルギー戦略の間で専門家が考えるべきことであり、国民に意見を聞いて決めるものではない。太陽光、地熱、風力、水力などの再生可能エネルギーは、開発途上で時間がかかるという見解があるが、これについても情報を広く国民に伝えるべきである。間違った安全神話、間違った安全主義ではなく、事実を究明、研究し、戦略的にできることを徹底的に進めることが必要ではないか。
(文責、在事務局)