国際政経懇話会

第246回国際政経懇話会
「日本をめぐる自由貿易協定の動き」(メモ)

 第246回国際政経懇話会は、岡田秀一経済産業省経済産業審議官を講師に迎え、「日本をめぐる自由貿易協定の動き」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年7月6日(金)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本をめぐる自由貿易協定の動き」
4.講 師:岡田秀一 経済産業省経済産業審議官
5.出席者:22名

6.講師講話概要

 岡田秀一経済産業省経済産業審議官の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

世界的な自由貿易協定推進の流れとその背景

 自由貿易協定(FTA)は、今でこそわが国でも広く周知されるようになっているが、世界では、すでに1990年代初頭から各地で積極的に推進され、主要な潮流となっていた。1993年のEU、94年のNAFTA、95年のメルコスールの陸続たる発足は、その流れが世界全域を覆うものであって、決して欧米等一部地域に限定されたものではなかったことを示している。1989年のAPECの設立はこの流れの中で開始されたもの。1990年代以降現在にいたるFTAの発効累積件数はすでに226件となっているが、FTAを後押しする要因の一つには、WTO交渉の難航が挙げられる。しかし、WTOには、貿易・経済の保護主義に対する世界的な「防波堤」としての役割などが期待されており、FTAの広がりがWTOの機能に代替することはなく、両者はともに今後とも国際貿易にとって重要な存在であり続けるだろう。

わが国によるEPAの取り組み

 EPAとは、締結国間での関税撤廃だけでなく、様々な分野(貿易の円滑化、知的財産、投資、政府調達、サービス、電子商取引、紛争解決、制度的事項など)での連携協力をめざすものである。わが国によるEPAの取り組みは、世界のいたるところで進められている。東南アジアでは、2002年のシンガポールとの締結を皮切りに、マレーシア、タイ、フィリピンなど多くの東南アジア諸国とEPAを締結し、2008年にはASEANとの締結に至っている。中南米では、メキシコ、チリ、ペルーとすでにEPAを締結しており、コロンビアとはEPAに関する共同研究を進めている。カナダとは交渉開始を決定したところであり、豪州、モンゴル、さらには中東の「湾岸協力会議」諸国と交渉中である。東アジアでは、韓国との交渉が中断しているが、日中韓三ヶ国首脳は、先日、年内の交渉開始に合意したばかりである。交渉中の各国との貿易関係において特徴的なことは、日本からの主要な輸出品目である自動車について高い関税が設定されていることである。これに対して、日本の工業品の輸入関税はすでに十分に低率あるいはゼロであるため、ギブ・アンド・テークを前提とする交渉においては難しい対応を余儀なくされることが多い。

TPPと日本の方針

 わが国は2010年10月1日、世界の主要貿易相手国と包括的な経済連携に関する基本方針を閣議決定した。TPPについては2011年11月11日に野田総理より「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました」との記者会見がなされた。野田総理はここで「各国がわが国に求めるものについて更なる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得ていく」ことを述べている。本年4月30日の日米首脳会談では、野田総理より「日米が協力し、地域における貿易・投資に関する高い水準のルール・秩序を形成する意義は大きい」との認識が述べられた。わが国はまた、2011年11月にバリ島で開かれた東アジア・サミットにおいて「東アジアにおいてCEPEA、EAFTAを踏まえつつ、東アジアの包括的経済連携(RCEP)を目指すべき」ことを提案している。2010年11月の横浜APECサミットで、その実現を目指すことが合意されたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)は、TPPとRCEPがその実現に向けた重要な道筋となるだろう。

(文責、在事務局)