国際政経懇話会

第245回国際政経懇話会
「激動する政局と野田政権の対応」(メモ)

 第245回国際政経懇話会は、政治評論家の鈴木棟一氏を講師に迎え、「激動する政局と野田政権の対応」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年6月15日(金)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「激動する政局と野田政権の対応」
4.講 師:鈴木棟一 政治評論家
5.出席者:17名

6.講師講話概要

 鈴木棟一政治評論家の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

「出来レース」としての税と社会保障の一体改革

 野田首相が「政治生命をかけてやる」といった税と社会保障の一体改革について、今明らかに言えることは、これが「出来レース」であったことである。自民党・民主党の二党間では、以前より既に水面下で合意が成り立っていたものと考えられる。たとえば2週間程前、ある自民党議員が、野田首相に対し「消費税法案から、社会保障を切り離して進めるべきではないか」と問うたが、野田首相は「それはもっともなことであり、本来だったら民主党から言うべきことである」との旨、回答がなされており、自・民両党の歩み寄りが示唆されている。さる2月25日にも、谷垣自民党総裁と野田首相間での「幻の党首会談」があり、この頃からすでに、両者の間では合意が取り付けられていたのではないかと考えられる。ねじれ国会の影響もあり、谷垣・野田の立場は共に弱く、両者が協力する動機は決して少なくなかった。また、消費増税という非常に重要な法案の審議があるにもかかわらず、国会の会期末を今月21日と設定していたことも興味深いが、これも民・自両党が手を組んでいたからこそ、全く問題のないことだったのであろう。

合意の裏にある自民党の思惑

 今回の政局の背景にある自民党の思惑の一つは「解散・総選挙に持ち込みたい」ということであったろう。自民党は、選挙になれば第一党になれると考えている。二つ目は「小沢一郎を排除する」ことであろう。多くの政治家と会うとわかるが、自民党議員の中にも小沢氏に対し強い恐怖感を抱いている議員は多い。確かに小沢氏は、多くの欠点を持っているが、選挙のプロであることは間違いなく、選挙になれば彼の影響力がその結果を左右することになる。かつて、宮澤政権に対して内閣不信任案が出された際、小沢一派が一斉に自民党を離党したが、その理由についてある議員は「小沢についていくと、選挙に落ちそうもない」と指摘していた。選挙を見据える現在の自民党にとって、小沢氏の指揮する民主党が最大の脅威であることを踏まえれば、税と社会保障の一体改革に関する民・自両党の合意は「小沢を外す」ことの合意の上に成り立っているのではないかと考えられる。

日本を牽引する政治家像

 多くの問題を抱えている現在の日本において、国の要である首相の平均在任期間が一年未満という現状は、異常事態である。この状況が長く続けば、日本は低迷し続ける一方であり、またアジアのリーダー国にもなれないであろう。日本を牽引する政治家には、確固とした国家観と国を背負う気構えが必要であるが、それらを有する政治家は現在非常に少ない。たとえば、近年の首相で言えば、田中角栄氏にはそれがあったが、竹下登氏にはなかった。今の政治家はまた、有能なスタッフ(人材)を育てる重要性を理解していない。かつて伊藤博文は、居並ぶ立憲政友会幹部らを差し置いて、当時大阪毎日新聞社の社主であった原敬を幹事長に抜擢した。政友会内部からは当然のごとく大きな反発はあったが、反論や批判が出ると、「原君は、国家柱石の人物である。原君を中傷するのは、我輩を中傷するのと同じである」と言い切って、原を守った。伊藤のこの英断が、結果的に憲政史上最大の幹事長と言われた原敬の誕生をもたらしたのである。今後の日本の政界を見通す上で、大阪維新の会は興味深い存在であるが、彼らには有能なスタッフがいない。日本を牽引する政治家に必要なことは、国家観と国を背負う気構えに加え、有能なスタッフを育てようとする気持ちである。

(文責、在事務局)