国際政経懇話会

第244回国際政経懇話会
「日本再生へ向けて」(メモ)

 第244回国際政経懇話会は、安倍晋三元内閣総理大臣を迎え、下記1.~5.の要領で、「日本再生へ向けて」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2012年5月11日(金)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日本再生へ向けて」
4.講 師:安倍晋三 元内閣総理大臣
5.出席者:28名

6.講師講話概要

 安倍晋三元内閣総理大臣の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

デフレ経済の中での消費税引き上げについて

 税と社会保障の一体改革に関する法案が衆院本会議での審議に入るが、年金や社会保障費などが年々増大していく中で、消費税の増税は必要であり、それは自由民主党としても先の参院選で説明してきたとおりである。しかし、現在の日本経済における最大の問題は、この十数年間、デフレ経済に陥っていることであり、そうした中で消費税を上げて良いのか、という点を考える必要がある。消費税を上げる場合、政治がまず取り組むべき課題は、公務員の給料削減と人員の削減であろう。しかしそれは、税収の減少をもたらし、結果的にはデフレを進めてしまうことにつながる。また、1997年にも、消費税を3%から5%に増税したが、翌年から税収は減少し、また名目GDPも減少して、日本はデフレ経済に突入した。それ以来、2007年に唯一名目GDPが500兆円を超えたが、その後もデフレ経済から抜け出すことは出来なかった。ただし、2007年は消費税率を1%も上げずに、前年に比べて22兆円も改善していることに注目すべきである。現政権は消費税を上げることのみならず、まずは日本経済全体の成長をいかに実現していくかを考えるべきである。かかる観点より、日銀法を改正し、適切な金融政策を実施していく必要もある。

外交安全保障問題について

 わが国の外交安全保障にとって日米関係は非常に重要だが、対米関係において民主党は、自民党時代には当たり前に行ってきたことを行っていないどころか、見誤った方向に進んでいる。日米同盟の鍵は第5条と第6条である。第5条は、米国の若者が、兵士として生命をかけて日本を守ることを記しているが、信頼の置けない友のために生命をかける友はいない。第6条に関しても、日本は米軍に基地を提供することで、辛うじて同盟の双務性を保ってきたが、民主党は普天間飛行場の移設について「最低でも県外」と言い放った。そして「日米中は正三角形の関係にある」と述べた。これでは、米国の政府関係者らが日本に対して疑問を持つのももっともである。現在、米国との信頼関係は大きく揺らいでいるが、信頼関係のない同盟は、ただの紙切れに過ぎない。現政権は日米同盟の‘heart’ の部分を理解していない。中国とどう向き合っていくかだが、尖閣諸島問題については、日本は米国の信頼を回復し、米軍とともに抑止力を維持することが必要である。また、軍拡が非効率であることを、中国に知らしめる必要もある。日中間には様々な問題があるが、それらをいかにコントロールするかが重要である。たとえば、安倍政権時代は「戦略的互恵関係」の構築を目指したが、それは「日中友好関係」それ自体を目的化するのではなく、「日中友好関係」はあくまでも国益実現のための手段であるとの認識に基づくものであった。

東日本大震災後の復興について

 東日本大震災が起こってから既に1年が経過したが、その復興は遅々として進まない状況であり、これは民主党に大きな問題があると言わざるを得ない。民主党政権下では、驚く程簡単なことも実施されていない。たとえば、先日、福島県の相馬市長らと話をする機会を得たが、市長から「相馬市から仙台への通学用に、特別バスの運用を陳情しているが、1年近く経ってもまだ実現されていない」と聞かされた。20兆円の補正予算がある中で、なぜこんな簡単なことを実行出来ないのか理解に苦しむ。民主党政権は、人はポストにつけば、自動的に動くと考えているみたいだが、それは誤りである。今、日本に必要なことは、生命をかけて守るべきものを再認識し、そのために必要な政策を決断し、実行していくことである。生命をかけて守るべきものとは、損得を超えた価値であり、ふる里、家族、そして祖国日本である。

(文責、在事務局)