国際政経懇話会
第233回国際政経懇話会
「日露関係の現状と今後の展望」(メモ)
第233回国際政経懇話会は、小寺次郎外務省欧州局長を講師に迎え、「日露関係の現状と今後の展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2011年4月12日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「日露関係の現状と今後の展望」
4.講 師:小寺次郎 外務省欧州局長
5.出席者:32名
6.講師講話概要
小寺次郎外務省欧州局長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
「強気のロシア」
私が外務省ロシア課長を務めた1999年から2002年にかけての3年弱の期間は、プーチン氏が1999年8月にロシア大統領に就任し、その存在感が高まりつつあった時期と重なっている。その後、およそ10年を経て、2010年8月に欧州局長に着任したが、それ以来目の当たりにしている現在のロシアの姿は、ロシア課長当時に観察していたロシアの姿と比べて、明らかに態度を強硬化させている(あるいは、「強気」になった)との印象を抱いている。例えば、昨年7月の記念日「第二次世界大戦終了の日」(9月2日[1945年9月2日は日本が降伏文書に署名した日])の制定や、同年11月のメドヴェージェフ大統領による国後島訪問などの動きは、10年前にはおよそ考えられないことであった。ロシアは今では、「第二次世界大戦の結果として北方領土は自国のものとなった」との認識を前面に押し出すようになり、それを日本が採用するならよし、しないならばそれでもよし、つまり “Take it or leave it!” という頑なな態度を示している。そして、こうしたロシアの態度の変化を促した要因としては、例えば原油価格の上昇により経済的に豊かになったことや、あるいは外交的には強気の対外姿勢が功を奏し、数年前と比べて各国との関係がロシア本位に進むようになったことなどが指摘できよう。
東日本大震災後の転換
他方で、上記のような対日強硬姿勢とは裏腹に、本年3月11日に起きた東日本大震災の直後、ロシアはすぐさま政府高官レベルで哀悼の意を表明し、支援提供を申し出たが、この点は注目に値する。具体的には、本年3月22日の河野雅治駐ロシア大使とイーゴリ・セーチン副首相との会談において、セーチン副首相は①液化天然ガスの供給増(「サハリン2」経由)、②石炭供給増加(300~400万トン)、③電力供給用の海底ケーブル設置(サハリン州~日本間に敷設)、④既存のパイプラインでの欧州向けガス供給を増加させ、そこでの余剰LNGを日本に振向けること、の4点を内容とする対日エネルギー協力を申し出ている。そして実際、ロシアによる手厚い震災復興・支援活動は、日本にとっても非常に有用であった。こうしたロシアに対して、日本政府は、「たしかに平和条約の不在や領土問題といった障害があるとしても、この地域における戦略環境を鑑みた場合、あらゆる分野における関係拡大が望ましい」と考えており、「日露間でウィン・ウィンとなれるような可能性のある分野であれば、交渉を拒否する理由」はなく、セーチン提案を前向きに検討しているところだ。他方で、ロシアのこうした対日トーンの変化の背景には、ロシア国民の間に日本に対する同情、共感、賞賛、そういった感情が自然発生的に生まれたことも挙げられよう。2012年の大統領選挙を控え、ロシア政府が国民の感情に敏感に反応していることもあると言える。
ロシア内政について
ロシア内政について言えば、2012年に予定されている大統領選挙を控え、現在ロシアは「政治の季節」に入りつつある。「レヴァダ・センター」の調査によれば、プーチン首相の支持率は常に現職のメドヴェージェフ大統領を数%上回っており、現時点においても国家の実権を掌握しているのは、事実上、プーチン首相と彼の率いる「プーチン・チーム」であると見られている。プーチン首相自身としては、「プーチン・チーム」の実権掌握状態を今後も維持していくために誰が大統領選に出馬する(そして勝利する)ことが最善の策なのか、未だに状況を見定めているところだろう。他方で、現職のメドヴェージェフ大統領も、二期目への意欲を見せている。例えば、同大統領は本年4月2日に「閣僚、次官の国営企業の役員就任を禁止する」との大統領令を発布しているが、このような大胆な措置も大統領選と無関係ではないであろう。
最後に、改めて強調しておきたいのは、ロシアは現在「政治の季節」に入りつつあるということであり、大きな、困難な政治的決定は当分後回しになるということだ。2012年の大統領選挙を控え、ロシア政府は明らかに国民感情に敏感になっている。日本政府としては、この点を念頭に対ロ政策を考えるべきだ。
(文責、在事務局)