国際政経懇話会

第231回国際政経懇話会
「我が国長期低迷の原因と再生のあり方」(メモ)

 第231回国際政経懇話会は、柳瀬唯夫経済産業省大臣官房総務課長を講師に迎え、「我が国長期低迷の原因と再生のあり方」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2011年2月17日(木)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「我が国長期低迷の原因と再生のあり方」
4.講 師:柳瀬 唯夫  経済産業省大臣官房総務課長
5.出席者:21名

6.講師講話概要

 柳瀬唯夫経済産業省大臣官房総務課長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

『産業構造ビジョン』発表の背景

 日本経済は1991年のいわゆるバブル崩壊以後、そこから依然として立ち直ることができず、深刻な長期低迷状態にあるといえる。そうした認識の下で経済産業省は、2010年初頭、我が国の経済構造の抜本的な改革ビジョンを示すべく、直嶋正行経済産業大臣(当時)直属のプロジェクト・チームを同省産業構造審議会内に立ち上げた。伊藤元重東京大学大学院経済学研究科教授を座長とし、経済界有数の識者を集結させて立ち上げた同プロジェクト・チームは、半年という期間をかけ、我が国産業界の首脳陣に対する大規模な意識調査を行ったほか、実務家・有識者との審議会を重ね、その成果は2010年6月に『産業構造ビジョン』という1つの冊子として取りまとめられた。

『産業構造ビジョン』の内容

 2010年6月にまとめられた『産業構造ビジョン』の特徴は、端的に言って、「目立つ」キャッチフレーズや「派手な」提言を打ち出すのではなく、日本経済の現状の問題点を徹底的に洗い出し、その問題点を克服するための冷静な政策ビジョンを打ち出した点にあると言える。その結果われわれは、日本経済の行き詰まりは、決して世界金融危機などの外在的、一過性の要因によるものではなく、(i)産業構造全体の問題、(ii)企業のビジネスモデルの問題、そして(iii)企業を取り巻くビジネスインフラの問題、といった3つの内在的、構造的問題に起因するものであるとの結論にいたった。(i)については、一国経済の付加が自動車産業という特定産業に大きく依存している点、同一産業内にプレイヤーが多数存在し、国内予選で消耗している点、開業率が廃業率を下回るという企業の「少子高齢化」などが、(ii)については、企業秘密に属する「ブラックボックス」と国際標準に属する「オープン」を組み合わせた製品を展開するというような企業戦略の不在、垂直統合構造型自前主義の企業モデルなどが、そして(iii)については、巨大な法人税負担、グローバルな人材の不足などが、それぞれの問題の深刻さを如実に指し示しているといえる。そして、このような構造的問題を克服するためには、単なる「対症療法」ではなく、政府と企業が持ちうるすべての英知を結集し、抜本的な構造改革を行う必要があるが、そのような改革主要な柱として、自動車一極依存から、5つの戦略分野(システム輸出/環境エネルギー課題解決/クールジャパン産業/医療介護健康サービス/先端分野)への転換を目指す「産業構造の転換」、「技術で勝って事業でも勝つ」ことを目指す「企業のビジネスモデル転換の支援」、ビジネスインフラの強化と雇用拡大を目指す「『グローバル化』と『国内雇用』の二者択一からの脱却」、そして国家間の熾烈な付加価値獲得競争に勝ち抜くことを目指す「政府の役割の転換」という「4つの転換」を提唱している。

2010年経済産業政策の流れ

 このような『産業構造ビジョン』の中で議論された政策エッセンスは、2010年6月18日に「新成長戦略」として閣議決定され、その具体的実現に向けた「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」が同年9月、閣議決定された。そして同年9月9日には、『産業構造ビジョン』の中で議論されている内容を実行に移すべく、菅直人首相や米倉弘昌経団連会長、白川方明日銀総裁などがメンバーとなった「新成長戦略実現会議」が発足し、同会議は現在までに同『ビジョン』に沿ったいくつかの経済対策を打ち出している。このような動きのなか、最終的には法人税の改正や「グリーン・イノベーション」への予算割り当てなどの法案可決を目指している。これから国会での審議に委ねられ、その帰趨がいかなるものとなるのかについて見守っていきたい。

(文責、在事務局)