国際政経懇話会

第219回国際政経懇話会
「民主党政権と日本経済の展望」(メモ)

 第219回国際政経懇話会は、島田晴雄千葉商科大学学長を講師に迎え、「民主党政権と日本経済の展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年11月10日(火)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「民主党政権と日本経済の展望」
4.講 師:島田 晴雄  千葉商科大学学長
5.出席者:28名

6.講師講話概要

 島田晴雄千葉商科大学学長の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

民主党政権誕生の意味するもの

 民主党政権の誕生は、日本の憲政史上における大きな変化である。国民の今回の選択の背景には、従来の自民党・官僚主導国家の行財政の行き詰まりがある。民主党には、若手議員を中心に、そのような「旧体制」を根本的に変えるとの意気込みがあるが、実質的に小沢幹事長の管理下にある民主党で、有能な議員が活躍できるかは定かではない。他方、同党が掲げる「マニフェスト」には、財源をどうするのかという本質的な問題がある。歳出を国債乱発で対応すれば、日本経済の弱体化につながりかねない。

国際経済のメガトレンドと今後の展望

 国際経済は世界的な大不況から徐々に回復しつつあるが、今後、国際経済のメガトレンドは大きな転換を示すと考えられる。具体的には3つの特徴があり、第1は、パックス・アメリカーナが、第二次大戦後、盤石の経済力を誇った第1期、相対的な優位を保った第2期を経て、昨年9月以降、世界経済の支える力を失った第3期を迎えたことである。米国と密接に連関した政治経済体制を持つ我が国は、そのことをよく踏まえるべきだ。第2は、「大量規格生産」型産業が歴史的退潮を迎えたことである。我が国でも自動車製造は、リーマン・ショック以降売り上げが激減しているが、従来型の産業構造の大転換期が訪れている。第3に、今後の経済を支える主要セクターとして人口、環境、エネルギーの3つが挙げられる。人口問題については、我が国では、少子高齢化が続く中、健康産業の成長が見込まれる一方、世界的には、人口増加が続く中、水と食料問題が大きな課題かつビジネス・チャンスとなるだろう。環境問題については、行き過ぎた環境保護主義に代わって、最近では「Sustainability Science」と呼ばれるアプローチが主流である。この立場では、文明的生活を享受しつつ、技術革新と社会システム変革を通じて、地球との共生を図ることが求められている。エネルギー問題については、19世紀のパックス・ブリタニカに象徴される「石炭経済」、20世紀のパックス・アメリカ-ナに象徴される「石油経済」に続いて、21世紀は「太陽経済」の時代になると考えられるが、この経済を支えるためには大幅な社会システムの変革が求められる。

日本のメガトレンドとスマートポリシーのすすめ

 日本の今後の課題は「人口縮小」と「高齢化」に集約されるといってよい。これらの現象は、社会保障整備、労働力確保、中小企業の生産性向上をますます困難なものとし、日本経済を今後数十年間悩ませるものとなる。民主党が掲げる政策には、市場や社会システムの実態を踏まえた「スマートポリシー(賢い政策)」でないものが多い。たとえば、派遣制度の廃止は、企業の事業縮小や海外流出を招き、そもそもの労働者救済という目的が達成されない結果を生む。子育て支援では、各家庭に直接「子ども手当」を支給するというが、都市勤労者層が必要とする保育施設不足という問題は看過されたままである。年金改革については、民主党の掲げる「一元化」では、年金保険料拠出に対する請求権に縛られるという弊害がある。むしろ基礎年金は税金でまかない、それ以外は各自が積み立てるという方式が望ましい。医療改革についても、医者を増やすというだけで、医者を取り巻く「コメディカル」と呼ばれるスタッフの絶対的不足や「混合診療禁止(保険診療と自由診療を同時に受けられない)」といった本質的問題が放置されたままである。農業については、農業従事者の高齢化と新規参入者が少ないことが問題である。民間の参入を許し、かつ「産業農業」「福祉農業」「治水農業」「教育農業」などとセクター化し、各セクターに適切な補助を行うべきである。

日本の成長戦略と民主党政権の課題

 現在の日本経済の最大の問題は、歳入と歳出のギャップをどう埋めるかである。国債で補うには限界があり、やはりパイを増やすための成長戦略が必要となる。その際、重要なことはグローバリゼーションが不可逆な趨勢であること認識し、世界の各企業が国を選ぶという時代が到来しつつあることを理解することだ。すなわち、日本は世界の企業に選ばれるためにも、情報が使いやすく、インフラが行き届き、国際的に通用する人材が豊富な国になることを目指すべきだ。民主党政権は長期政権になると予想されるが、上記のメガトレンドを十分に理解し、とくに健康産業、環境対策、エネルギー効率化の各分野を強化すべきだ。そして、排他的な党優先主義で国家や社会を閉塞させることなく、オールジャパンで人材と智恵を総動員してこれからの日本を率いる政権となるべきだ。

(文責、在事務局)