国際政経懇話会

第217回国際政経懇話会
「新段階を迎える日・ASEAN協力」(メモ)

 第217回国際政経懇話会は、鹿取克章ASEAN担当特命全権大使を講師に迎え、「新段階を迎える日・ASEAN協力」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2009年9月18日(金)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「新段階を迎える日・ASEAN協力」
4.講 師:鹿取 克章  ASEAN担当特命全権大使
5.出席者:20名

6.講師講話概要

 鹿取克章ASEAN担当特命全権大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

「ASEAN大使」の経緯

 外務省にASEAN担当大使のポストが新設され、2008年10月に自分が任命された背景には、ASEAN憲章が発効して、ASEANに法人格が付与されたことを受けて、スリンASEAN事務総長から各国に対しASEAN担当大使職を設けてほしいとの要請があったことがある。非ASEAN諸国のASEAN大使の数は現在28名だが、その多くは在インドネシア大使が兼任している。日中米豪印は本国にベースを置いた大使となっている。

ASEANの拡大および深化

 1967年の創立以降蓄積してきたASEANの会合・協力の実績は大きな効果を生んでおり、ASEAN10の成立やASEANへの法人格の付与等を経て、統合は着実に拡大と深化を遂げている。加盟各国が主権国家の役割やその国益を今後とも重視していくことには変わりはなく、ASEANとしてのアイデンティティ形成についてもさらに努力を継続する必要はあるが、大きな仲間意識はできており、加盟国間で本格的な衝突や戦争はもはや考えられない段階にある。また、緊密な会合・協力プロセスには教育効果(キャパシティ・ビルディング効果)もあり、グローバルな会議におけるASEANの対応はなかなか印象的である。

ASEANを中心とする地域協力の深化

 ASEAN+3、EAS、ARF等の蓄積に加え、特に1997年以降、金融・投資・貿易や国境を越える諸問題等の地域共通の課題が増加したとの認識が深まった。将来の目標である東アジア共同体については、加盟国によって考え方の相違がみられる。タイ、マレーシア、中、韓はASEAN+3での共同体形成を、インドネシア、シンガポールはASEAN+6での共同体形成を支持しているものとみられる。日本はASEAN+6での共同体形成を支持している。ASEAN+6を支持する理由として「中国の影響力を弱めるから」という要因も聞かれる。個人的には国境を越える問題に対処するにはインドや豪州等を含めた方が合理的であり、過度に中国を意識することなく、メリット・ベースで考えたら良いと思う。

ASEANをめぐる新たな展開

 1999年のASEAN10成立の結果、ASEANの地政学的重みが増大して、中印等との結びつきも強化された。2003年以降の日中韓印豪NZとのEPA網整備の結果、ASEAN+6の域内貿易が増加した。また、チェンマイ・イニシアチブの強化とそのマルチ化、ABIの進展、ABDの資本金拡充、経済危機克服のための様々な措置の導入、2兆円規模の日本の支援等の結果、域内の経済的枠組みが強化されている。

ASEANの重要性の拡大

 ASEANはアジア太平洋地域の様々な協力においてドライバーズ・シートにあり、政治的な存在感を高めている。また、ASEANには大きなインフラ需要があり、多くの国から今後一層民間資金が投入されるという点で、経済的にも注目すべきである。中印等域内諸国はもとより、米欧ロ等もASEANとの関係強化に一層努力しており、米国は今年7月にTACに署名、メコン4カ国と初の外相会議を行った。

日本の対応

 ASEANは地域組織として発展しているが、基本的には個々の加盟国との関係が重要である。日本は今後とも加盟各国の対ASEAN政策を注視していく必要がある。また、日本はメコン開発やBIMP-EAGA等のASEANの域内格差是正努力を支援していく必要がある。なお、ASEAN側には地域をめぐる日中間の対立に対する懸念がみられるところ、日本は「日中メコン政策対話」および「日中経済ハイレベル対話」等の枠組みを通じて中国との協力を深めていくべきである。競争の激化に対処するためには官民合同のオール・ジャパンで情報交換し、様々な協力を模索する必要がある。

(文責、在事務局)