国際政経懇話会

第210回国際政経懇話会
「金融資本市場の破綻と世界経済の悪化」(メモ)

 第210回国際政経懇話会は、大場智満国際金融情報センター理事を講師に迎え、「金融資本市場の破綻と世界経済の悪化」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2008年12月10日(水)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「金融資本市場の破綻と世界経済の悪化」
4.講 師:大場 智満  国際金融情報センター理事
5.出席者:26名

6.講師講話概要

 大場智満国際金融情報センター理事の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

 サブプライムローン問題に端を発する金融危機は、今年9月のリーマンブラザーズ破綻によって一気に世界金融危機へと発展し、いまや実体経済にも深刻な悪影響を及ぼしている。サブプライムローン問題が米国の問題である一方、それによって生じる金融資本市場の混乱はG7の問題であり、両者は分けて考えるべきであるが、いずれも認識不足で対応が遅れた。今回の金融危機の背景には証券化があり、サブプライムローンが組み込まれた証券がグローバリゼーションの中で、世界中に売られていた。すべての問題の根底には米国の住宅問題がある。2000年以降、住宅価格が上昇し続けていたために、住宅を担保にしさえすれば誰に貸してもよいということになった。加えて証券化で貸し手の責任があいまいになり、銀行などが相手を見て貸付判断をしなくなった。現在、住宅価格が下落を続けているが、ピーク時から4割程度下落すれば底を打つのではないか。つまり、状況が落ち着くまでには3~4年はかかるのではないだろうか。証券化については、金融工学の進展に伴って新しい取引形態が数多く生まれたが、規制・監督当局がそれについていけないことも問題である。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などは全体で33兆ドルにも達すると言われているが、これまで一体いくらあるのかも分からず、野放しになっていた。最近になって清算機構を作るという話になっているが、遅きに失したと言える。11月に開催されたG20は、それなりに意味があったとは思うが、レイムダックのブッシュ大統領が議長を務め、そこで物事が決まるわけがない。金融規制・監督の強化、各国それぞれの財政政策、WTOドーハラウンドの立て直し、IMFの役割強化が今回のG20のポイントである。IMFについては、中南米が融資を返済した後はトルコ以外に借り手がおらず、困っていたというのが実態であり、資金がないわけではない。いくら日本がIMFに1000億ドルを融資すると言っても、IMFがほしがらないのではないか。
 実体経済への影響については、IMFは10月に発表した「世界経済見通し」を11月には大幅に下方修正しなければならない状況で、米国、ユーロ圏、英国、日本とも2009年はマイナス成長が見込まれている。アメリカでは雇用問題も深刻である。オバマ新政権では、雇用、公共投資に5000億ドルの財政刺激策をとる予定といわれ、米国の財政赤字は1兆ドルを超える見通しである。経常収支の赤字も1兆ドルに達すると見られているが、中国、日本、OPEC諸国、その他の産油国の経常黒字を足すと1兆ドルとなり、数字の上では見合っている。しかしこれらの国がこれまでのように米国債を買い続けるかが問題だ。心配なのは日本であり、通関統計ベースで見るとわが国の貿易収支は今年8月以降、ゼロまたは赤字に転落しており、国際収支ベースではかろうじて少し黒字だが、基調としてはもはや貿易黒字国ではなくなってきている。
 当面の金融危機への対策としては、(1)流動性供給、(2)不良債権処理、(3)銀行への資本注入が3本柱になるが、アメリカは資本注入では迅速な対応を見せたが、問題解決に不可欠な不良債権の買い取りが遅れている。
 通貨制度に関しては、貿易取引ではドル基軸が続いているが、資本取引では貿易取引と全く異なる状況になっており、ユーロが基軸通貨としての地位を築きつつある。ユーロの存在がかつてのようなドルの地位を許さなくする可能性がある。他方、BRICsについては先行きを楽観視できない。 

(文責、在事務局)