国際政経懇話会
第205回国際政経懇話会
「外交官生活38年を振り返って」(メモ)
第205回国際政経懇話会は、谷内正太郎前外務事務次官を講師に迎え、「外交官生活38年を振り返って」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2008年6月16日(月)正午より午後2時まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「外交官生活38年を振り返って」
4.講 師:谷内 正太郎 前外務事務次官
5.出席者:26名
6.講師講話概要
谷内正太郎前外務事務次官の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇話会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
次官在任中、基本的な外交姿勢として『凛とした志の高い外交』を目指してきた。武士道やわびさび、もののあわれといった日本文化が有する人間としての佇まいや心掛けに立脚しながら、国際社会で存在感と風格が感じられる外交を追求してきた。そのためには、国益と普遍的価値との整合性を確保し、国際的な説得力をもった外交を展開しなければならない。我が国は、ODA実績が世界第5位に転落するなど存在感や国際的地位が低下している。国力を向上させていかなければならないが、そのためにはジョゼフ・ナイが言うように、『ソフト・パワー』を強化し、さらには『スマート・パワー』としての地位を確立していく必要がある。今後の外交においては戦略性の導入と、世界中の膨大な情報の中から的確に情報を選別・分析する能力の向上が必要である。私が在任中に心掛けたのは、(1)信頼性確保のための外交の一貫性と継続性の確保、(2)事なかれ主義を排除するための受身の外交から積極外交への転換、(3)国民の心情、感情、気持を共有して国民と共に歩む外交、の3点である。戦略的外交を進めていく上での今後の最大の課題は、アジアの平和、安全、安定、繁栄の確保である。このためには、日本、米国、中国、ロシア、インドの5大国が自らの大国としての責任を果たしていくシステムづくりが重要となってくる。日米同盟はその前提であり、日米関係の相互性を高めていく努力が不可欠である。『自由と繁栄の弧』は、各国との対話やODAなどの協力を通じて、我が国の外交の地平を拡大することが期待される。対中政策では、日中両国は『戦略的互恵関係』を推進しており、胡錦濤主席来日時の『日中共同声明』は重要な成果である。他方、中国の積極的な資源外交や高圧的外交に対しては、対抗措置をとって覇権争いをやる必要はない。日本は普遍的価値を重視し、中国を国際社会の責任ある大国になるよう働きかけていくべきである。対韓国政策では、日韓新時代への期待がある。対露政策では、日本とロシアのパイプを太くする必要があるが、そのためには北方領土問題を解決してもらわなくてはならない。
(文責、在事務局)