外交円卓懇談会

第99回外交円卓懇談会
「外から見た安倍政権への期待と懸念」(メモ)

2014年4月16日
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局

 グローバル・フォーラム等3団体の共催する第99回外交円卓懇談会は、ジェラルド・カーティス コロンビア大学教授を講師に迎え、「外から見た安倍政権への期待と懸念」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2014年4月16日(水)午後3時00分より午後4時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「外から見た安倍政権への期待と懸念」
4.報告者:ジェラルド・カーティス米国コロンビア大学教授
5.出席者:38名

6.報告者講話概要

 ジェラルド・カーティス米国コロンビア大学教授の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

変化した日本の戦略

 今回日本を訪れ感じたことは、日本が元気になってきており、また戦略的な外交を行っているということである。例えば、豪州と大筋での合意に至ったEPAにおける日本の牛肉関税率は、TPPでの対米交渉を念頭においた有力なカードとなり、しかもMFN条項があるので、対米合意が対豪オファーの関税率より低くなっても、豪州にとり問題はない。今回の訪日で自分(カーティス教授)が会見した安倍総理自身からも、この一年での経験と政権の長期化という目標からか、何事にも戦略的に取り組もうという落ち着きと静かな自信を感じた。

官邸主導に移行しつつある日本の政治システム

 大正時代以来、日本は政府と与党による調整型の議会制民主主義を採用し、政府とはすなわち行政府と同義であった。それが今、英国のウェストミンスター・モデルと呼ばれる官邸主導型の政策決定システムに変わりつつある。その根本的変化に気が付いていない国会議員があまりに多いことに驚いている。このシステムは、橋本龍太郎総理(当時)が形作り、小泉純一郎総理(当時)が加速させ、安倍晋三総理が固めていると言える。
 官邸主導には二つの対象がある。一つは官僚に対する官邸主導である。これは、内閣総理大臣が主導する政治に、官僚が英国でも見られるように抵抗しながらも従うというものである。内閣人事局を発足させてトップ官僚600人の人事権を握ることになった国家公務員改革法は、その最たる例である。もう一つは与党に対する官邸主導である。これには問題があり、多くの与党議員は、安倍政権を公に批判することはないが、ベテラン議員を中心に「官邸独裁だ」「自分たちは、安倍政権の支持率が下がっても、ライフラインを出さない」といった不満を持っている。かつては、与党内では派閥が政府に対してチェック・アンド・バランスを担い、また野党にはブレーキをかける力があった。しかし今の野党は分散し、モラルも低い。“Absolute power corrupts absolutely”と言われるが、今の政権に対するチェック・アンド・バランスがどこから出てくるのだろうか。ただし、現行の集団的自衛権を巡る議論をみると、日本なりのチェック・アンド・バランスが作用している。いずれにせよ、この官邸と与党の関係の変化が、日本の政治史の一章(one chapter)として残るのは間違いない。

日本の政治システムの課題

 現在の日本の政治の問題は、野党がその役割を果たしていないだけでなく、与党の中にも安倍政権に挑戦(challenge)する者がいないということである。その根本的原因は、小選挙区制にある。(選挙毎に)特定の政党の議席数の激増減(スイング)を許してきただけでなく、政策が分かっても政治が分からないような政治家を生んでしまった。かつての様に、他の政党だけでなく同じ政党の候補者とも競争しなければならない中選挙区制であれば、政治家は選挙区で誰が自分を支持するかをまず見極めて、それから支持層に徹底的にアプローチし、国民の悩みや望みをよく聞いていた。小選挙区制を実施している限り、質の低い政治家が生まれ続ける。小選挙区制は日本に絶対に合わないが、この制度が変わる見込みはない。(日本の)新聞がこの問題を取り上げ、国民に知らしめなければならない。

日本の外交を理解するための三点

 現在の日本の外交を理解するために、重要なのは次の三点である。
 第一に、現在の日本の外交路線における「安倍ファクター」である。私はその影響力は限定的であり、イメージに反して、常識的に考えうる人の誰が総理になっても、今の外交路線が大きく変わることはないと考えている。現に野田佳彦元総理は森本敏氏を防衛大臣に任命したし、前原誠司氏を含めこの三人は集団的自衛権を認めるべきであるとの考えであるし、日韓関係で野田・李明博関係は安倍・朴槿恵関係と同様悪かった。尖閣諸島も2012年に野田政権が国有化したことで危機になった。ただし、歴史問題や方向性が不明瞭なままの「戦後レジームの脱却」などは、米国内に安倍総理の意図に対する疑問・不信を生む結果となった。これを中国が上手に使って、世界中でインパクトのある反日キャンペーンを展開している。日本は歴史問題への対応を改め、戦後70年間一貫してきた平和主義とその継続を積極的に主張すべきだ。
 第二に、現在のアジア情勢における日米同盟の問題である。1971年以来、アメリカは(イ)強固な日米同盟と(ロ)建設的・友好的な米中関係の二つをアジア政策の柱としてきた。その上で、現在の日米同盟は二つのジレンマに直面している。一つはまず、アメリカが日中の紛争に巻き込まれる(entanglement)のを恐れている。かつては日本側に巻き込まれ論があったが、今やそれは米国側にあり、これが安倍総理の靖国参拝に対する“disappointed”となった。他方、日本はアメリカに見捨てられる(abandonment)のを恐れている。どちらの事態も拡大を避けるために、日米同盟には大きな調整(adjustment)が必要である。
 第三に、中国の日米同盟に対する戦略である。1971年の周恩来・キッシンジャー会談では、中国が弱かったが故に、日本の再軍備を抑制する日米同盟に賛成していた。しかし現在の強い中国は、日米同盟に反対も賛成もせず、全世界、特にアメリカでの反日キャンペーンを通して同盟を弱めようとしている。その戦略に対抗するためにも、日本は歴史問題への対応を考え直さなければならない。自分は中国に対して、中国が日中関係を悪くして米中関係が良くなることはありえないと指摘した。日米中の三カ国関係は、一辺を犠牲にすれば成り立たなくなるからだ。尖閣問題に関して言えば、主権はゼロ・サムだから、ジョセフ・ナイなどが言うように尖閣諸島を自然公園にするなどはナンセンスである。解決ができないのだから、日本の嫌いな「棚上げ」ではなくて、「脇において」おく。日韓、日中関係について、自分はoptimisticとは言わないがhopefulである。

(文責、在事務局)