外交円卓懇談会
第59回外交円卓懇談会
「いわゆるギリシャ問題について」(メモ)
第59回外交円卓懇談会は、ニコラオス・ツァマドス駐日ギリシャ大使を報告者に迎え、「いわゆるギリシャ問題について」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2010年5月27日(木)午後3時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「いわゆるギリシャ問題について」
4.報告者:ニコラオス・ツァマドス 駐日ギリシャ大使
5.出席者:18名
6.報告者講話概要
ニコラオス・ツァマドス駐日ギリシャ大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
ギリシャの現状
ギリシャ国民全体の63%は、今回の経済危機がいずれ好転すると考えているが、ギリシャの置かれている客観的状況は、決して楽観視できるものではない。ギリシャ政府は、現在3000億ユーロをこえる巨額の財政赤字(GDPの13.6%)を抱えているが、この数字は、当初言われていた負債額(GDP12.7%)をさらに上回るものであり、今日、ギリシャの置かれている状況が以前にも増して不安定であること示している。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は、総額1100億ユーロの支援を決定したが、この支援策は、ギリシャが、2013年までに財政赤字を300億ユーロ減少させることを前提としており、その見通しはあくまでも厳しい。ギリシャの緊縮財政は、公務員給与の20%減額、年金の10%カット、所得税の最大45%増税等を予定しているが、今回の問題の根本的な要因は、一部には、ギリシャの抱える過剰な数の公務員であり、給与減額と同時に公務員の数そのものを減少する努力が急務であろう。このような状況にあってなお、フランス、ドイツは、戦闘機や軍艦などの武器の購入をギリシャに求めているが、むしろギリシャ、トルコ双方の話合いによる軍縮を促し、その平和を保障するような動きをすべきではないかと思う。
ユーロ離脱はあるか
今回のギリシャ危機の一つの特徴は、ギリシャがユーロという共通通貨の一員であるために、危機打開策としてその通貨を切り下げることができないということである。経済危機は、金融・為替・財政等の諸施策を総合的に組み合わせて解決するのが一般的であるが、ギリシャはユーロを採用しているため、財政上の努力のみでこの経済危機に対応しなければならない。しかし、財政改革のみによる経済危機への対応は、事実上非常に困難である。ギリシャがEUから離脱すればよいではないか、との質問があるかもしれないが、それは政治的に考えにくい。ユーロを捨てることは、経済的決断というよりも、「EU、ひいては欧州そのものから離脱する」という政治的な意味を伴うからである。ギリシャは、現在27あるEU加盟国のなかで10番目の加盟国であり、ヨーロッパ文明の発祥地として、EUにおいて特別の地位を持っている。その地位を放棄することは、きわめて難しい。今回のギリシャ問題が明らかにしたのは、EUが共通の通貨政策をとりつつ、財政政策は各国に分断されているという、EU独特の脆弱な点ではなかっただろうか。
EU経済の2つのシナリオ
ギリシャ問題に端を発するEU経済の見通しには、2つのシナリオが考えられる。まず第1は、悲観的な展望であり、今回の問題が欧州全体の「終わり」をもたらすという見方である。ギリシャの財政危機は、2009年に発効したリスボン条約以降で、EUが初めて直面する問題である。EUの過剰な拡大が組織自体の崩壊を招くという可能性である。第2は、より冷静な展望であり、EUはこの機会にその結束をより強固なものにして、今回の事態を乗り切ることができる、というものである。ギリシャとしては、EUがそのような方向に向かって進んで行くことを期待している。
(文責、在事務局)