外交円卓懇談会

第58回外交円卓懇談会
「台頭するアジア太平洋地域における地域協力の推進:オーストラリアからの視点」(メモ)

 第58回外交円卓懇談会は、マレー・マクレーン駐日オーストラリア大使を報告者に迎え、「台頭するアジア太平洋地域における地域協力の推進:オーストラリアからの視点」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。

1.日 時:2010年4月28日(水)午後3時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「台頭するアジア太平洋地域における地域協力の推進:オーストラリアからの視点」
4.報告者:マレー・マクレーン  駐日オーストラリア大使
5.出席者:17名

6.報告者講話概要

 マレー・マクレーン駐日オーストラリア大使の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。

アジア太平洋地域の協調とオーストラリアの視点

 オーストラリア政府の外交政策の柱はアジア太平洋地域諸国との協調関係を強化し、安全性に裏打ちされた地域発展の可能性を見極めることにある。その中心の一つが日本とのパートナーシップであり、2+2における防衛・安全保障協調に代表されるように、現在では日豪関係は伝統的な経済面でのパートナーシップを越えるものとなっており、両国は核不拡散・武装解除等といった共通の理解を様々な共同活動を通して築き上げてきた。

アジア太平洋地域の台頭を活かす

 近年、国際社会の政治・経済、軍事における戦略上の重要性がアジア太平洋地域にシフトしつつあるが、その安定性を維持するには、軍事力、経済力に加えソフト・パワーを併せ持つ単独で最も強力なアクターである米国の戦略的優位性が欠かせない。他方、中国のみならずインドやインドネシアもまた可能性を秘めた重要なプレイヤーになる。今後、この地域は、北朝鮮問題、エネルギー資源をめぐる問題等をめぐって、各国の協調と、問題解決に向けての新しいアプローチを必要とすることになる。また、自然災害は、中国青海省の地震に見られるように、罹災国に多大な人的・経済的損失を与え、回復には多大な援助を必要とする。被害を受けた当事国のみで対処するには不十分であり、多くの国々が協調することが重要である。他方、この地域において、貿易と投資のさらなる自由化は重要ではあるものの、それが経済的成功を収めるための万能薬ではない。

ASEAN地域協力の進展

 今年1月に施行された「ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易地域協定(AANZFTA)」では、最も発展の遅れたASEANの3カ国を除いた参加国の関税を90%~100%引き下げるもので、アジア太平洋地域の発展と資本や投資の増加に効果を大いに発揮するであろう。EASの枠組みにおいて、ASEANのパートナーであるオーストラリア、日本、中国、韓国、インド、ニュージーランドは、それぞれASEANとFTAを結んでいるが、次なる課題は個別のFTAを一体化し、EAS16カ国を貿易自由化によって繋ぐことになるべきだ。日豪間FTA交渉がさる4月19日から23日にかけて開催されたが、同交渉で農業がもっともデリケートな分野であることは公然の事実であるが、オーストラリアとしては経済的に有益な結果を導き出したい。

「アジア太平洋地域共同体」構想について

 「アジア太平洋地域共同体」構想の主たる目的は、アジア太平洋地域における、政治・経済、その他の課題について首脳レベルの対話の場を設立することにある。インドはAPECには入っておらず、ロシアと米国がEASの一員ではない以上、既存のシステムでは、現在の課題に深く切り込んでいくための首脳レベルの協調ができない。より強い地域提携はアジア太平洋地域のもつ国際社会・経済、そして戦略的重要度を高めるだろう。EASあるいはASEAN+8は、既存の地域体制をより高度な組織へと昇華する礎となる可能性を十分持っている。鳩山首相は、アジア太平洋地域の未来に関する対話を強化することで、東アジア共同体イニシアチブへ貢献した。今後、オーストラリアはこのイニシアチブの成功を多大な関心とともに見守っていくつもりである。アジア太平洋地域は、一つの地域共同体として歩むことによって、好機を最大限に利用することができるのであり、また、起こりうる課題に迅速に対応することも出来るようになるのである。

(文責、在事務局)