外交円卓懇談会
第55回外交円卓懇談会
「拡大抑止と米国核態勢見直し」(メモ)
第55回外交円卓懇談会は、エレーヌ・バン米国防大学国家戦略研究所(INSS)上席研究員を報告者に迎え、「拡大抑止と米国核態勢見直し」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2009年11月19日(木)午後3時より午後4時半まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「拡大抑止と米国核態勢見直し」
4.報告者:エレーヌ・バン 米国防大学国家戦略研究所(INSS)上席研究員
5.出席者:16名
6.報告者講話概要
エレーヌ・バン米国防大学国家戦略研究所(INSS)上席研究員の講話概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
オバマ政権と「核態勢見直し(NPR)」
今日、核の脅威が冷戦期と比べさらに増大しているなか、オバマ大統領は、本年4月のいわゆる「プラハ演説」で「核兵器によらない世界の平和と安全保障を追求する」と述べ、米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割の削減に言及した。もっともこれは長期的な目標であり、他方で、オバマ大統領は「核兵器が存続する限り、いかなる敵をも抑止しうる効果的な軍事力を維持し、かつすべての同盟国に同様の防衛を保証する」と述べている。現在、米国では、向こう5~10年にわたる米国の核抑止政策、核戦略の基本方針を定める「核態勢見直し(NPR)」の作成準備が進められているが、オバマ大統領が、NPRを米国の核戦略と核不拡散の双方のバランスをとるものとするよう指示を出したことを受けて、現在、省庁横断的(whole-of-government approach)に、その草案の調整が進められている。このNPRは、本年12月に失効する「第一次戦略兵器削減条約(START1)」後継条約の交渉の基盤となるものとなる。なお、今回のNPRは、過去2回(1994年と2001年)とは異なり、その公式報告書が公開される予定である。
START1 後継条約交渉
オバマ大統領とメドヴェージェフ・ロシア大統領は、本年7月にモスクワでSTART1後継条約交渉の予備交渉に臨み、米ロ両国の核保有量をそれぞれ3分の1程度削減することに基本合意したが、ミサイル発射装置や爆撃機の削減数に関しては折り合いがつかず、また核弾頭の具体的な削減数や削減にあたっての検証手続きの中身などについても今後の交渉に委ねられることとなった。米ロ間で後継条約をめぐる意見の相違が見られるなか、先日開催されたシンガポールでの APEC首脳会議では、オバマとメドヴェージェフは、12月のSTART1失効までに後継条約の取りまとめに合意できるとの楽観的な見解を表明した。これが実現すれば、米ロ両国が互いに対する軍事的懸念をいったん棚上げしたことを意味するが、仮に後継条約に署名がなされたとしても、その後、両国での批准に加え、執行にあたってのさまざまな障害が予想される。
拡大抑止と拡大核抑止
拡大核抑止は、同盟国に「核の傘」を提供することにより、同盟国の核保有の必要性を減じることで、核不拡散の効果を持つといえる。米国は世界の核保有国の中で唯一、明確に同盟国に対し核の安全保障を提供している国である。その一方で、米国は、21世紀において、新たに浮上した潜在的脅威にたいして如何に効果的な抑止を行うかの戦略的見直しが求められている。抑止は潜在的脅威の意思決定に対して影響力を行使することを意味するが、その際、鍵となるのは、潜在的脅威による①攻撃のコストを上げ、②攻撃がもたらす利益を下げ、かつ③攻撃がなされなかった場合の帰結を予測する、という3点である。そして、その目的のために重要となるポイントは、①敵を知る、すなわち彼らの意図・目的・行動パターン・思考プロセス等への理解を高めること、②核兵器や通常兵器などの軍事力と並んで、外交、法律、経済を含むさまざまなツールを通じた複合的なアプローチをとること、③言葉と行動を通じて潜在的脅威にたいし明確なメッセージを伝える、ということである。と同時に、抑止力の効果を有効なものとするためには、同盟国がその有効性を十分理解することが重要である。その意味で、日米間においても、トラック1、トラック1.5、トラック2などさまざまなチャンネルで、核抑止に関わる諸問題について話し合う機会を制度化し、両者の理解と協力を強化することが重要である。とくに、通常兵器に関する日米の防衛協力は、抑止の効果を高める上で非常に重要であり、かつ核抑止にも貢献するものである。
(文責、在事務局)