外交円卓懇談会
第116回外交円卓懇談会
「ポスト金融緩和のインドネシア経済の展望」(メモ)
グローバル・フォーラム
公益財団法人日本国際フォーラム
東アジア共同体評議会
事務局
グローバル・フォーラム等3団体の共催する第116回外交円卓懇談会は、ムハマド・チャティブ・バスリ前インドネシア財務相を講師に迎え、「ポスト金融緩和のインドネシア経済の展望」と題して、下記1.~5.の要領で開催されたところ、その冒頭講話の概要は下記6.のとおりであった。
1.日 時:2015年10月9日(金)15時00分より16時30分まで
2.場 所:日本国際フォーラム会議室
3.テーマ:「ポスト金融緩和のインドネシア経済の展望」
4.報告者:ムハマド・チャティブ・バスリ前インドネシア財務相
5.出席者:18名
6.講師講話概要
ムハマド・チャティブ・バスリ前インドネシア財務相の講話の概要は次の通り。その後、出席者との間で活発な質疑応答が行われたが、議論についてはオフレコを前提としている当懇談会の性格上、これ以上の詳細は割愛する。
(1)世界経済におけるインドネシア経済の重要性
今後10~15年の世界経済においては、欧米経済が唯一の原動力ではありえず、アジア経済やラテンアメリカ経済の役割と存在感が増すことになるだろう。とくにアジア経済においては、インド、日本、中国に加え、6億の人口と2兆米ドルのGDPを抱えるASEAN経済の役割は少なくない。また、地政学的にみて、東アジア地域の安定と発展を図る上で、日本や中国の役割の重要性はいうまでもないが、ASEANは、日中間のバランスを取る役割を持っている。そのような中、インドネシアは、政治的にはASEANのバランスを計る中心的存在であり、経済的にはASEAN全体のGDPの約50パーセントを占めているなど、ASEANの安定と発展の鍵となる国であるといえる。今後、インドネシア経済が東アジア経済、ひいては世界経済に及ぼす影響はますます大きくなるだろう。
(2)インドネシア経済の現状
しかし今日、インドネシア経済は岐路に立たされている。その理由には、第1に、インドネシアの主たる輸出品目の一つである石油の国際価格の低迷が挙げられる。世界の産油国は、米国のシェール・ガスの台頭に繋がりかねない石油価格の上昇は欲せず、たとえば、中東産油国は、1バレルあたり70米ドル以下に留めたいと考えている。そうなると、天然資源の輸出がインドネシアの経済成長の原動力とはなりえなくなる。第2に、中国の経済成長の減速が挙げられる。エネルギー資源や各種製品の輸入大国である中国は、久しくインドネシアの最重要の輸出先であったが、近年の中国経済は、公表されている成長率を実際には大きく下回っていると考えられており、インドネシアはそのあおりをもろに受けている。他方、そのような輸出に代えて、国内の安価な労働力を効率よく活用すれば、インドネシアの経済成長の原動力となりうるとの指摘があるが、もはや中所得国の段階に達しつつあるインドネシアで、人件費を低く抑えることは難しく、安価な労働力という点では、たとえばバングラデシュには到底適わない。
(3)インドネシア経済の中長期的課題
このような現状を踏まえ、インドネシア経済が今後とも成長を続けるためには、大きく3つの課題がある。第1に、インドネシア経済を、知識集約型産業に支えられた経済へと転換することである。そのためには質の高い人的資本の育成が必須である。第2に、持続可能な経済成長のための強固な社会的インフラを整備することである。第3に、政府の各機関が正常に機能するよう、ガバナンスの改善を徹底することである。言い換えれば、インドネシアは、資源、設備、土地といった有形資産に依存した経済から、制度、技術、ノウハウといった無形資産を強みとする経済へと転換していくことが求められている。
(4)目下のインドネシア政府の取り組み
上記の中長期的な課題に加え、インドネシア経済は、目下、輸出の減少に起因する経常収支の赤字からの脱却という課題に直面している。そのためには、内需の活性化が必要となるが、具体策としては、現状、燃料価格調整のために支出されている多額の補助金を削減し、その余剰金を貧困層に給付し、国民全般の購買力を底上げするといった方法が考えられる。しかし、経常収支の赤字からの脱却のための決定打は、やはり外国直接投資(FDI)の誘致である。インドネシアは現在7パーセントの経済成長を目標としているが、その目標を達成するには、GDPの36パーセントの規模の国内投資が必要である。これを可能とするためには、FDIを強化するしかない。実際、現在のインドネシア政府は金融緩和を進め、海外からの投資を誘致しようとしている。いずれにせよ、「危機こそが良い政策を生み出す」のであり、現在のインドネシア財務相にも、インドネシア経済の安定に向けて更なる改革を進めてくれることを期待したい。
(文責在事務局)