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2009-02-26 08:16

日米首脳会談の急所は、米国債購入の密約か

杉浦 正章  政治評論家
 政局一辺倒の民主党代表・小沢一郎が「中身はほとんどなかったのではないか」と日米首脳会談を酷評しているが、難癖をつけるなら情報を集め分析してからにすべきだ。今回の首脳会談は、大きな問題をはらんでいる。「基軸通貨ドルの信認の維持が重要」との合意は、とりもなおさず米国債の消化を日本が引き受け続けるということにほかならない。この情勢下では、“一蓮托生”はやむを得ないとしても、国民に説明の無いままリスクを受け持つことは理解しがたい。首相・麻生太郎は米国債に関する方針を明示すべきだ。首脳会談で解せないことは、麻生が「半分は景気対策と経済問題だった」と述べている割には、経済の重要ポイントの公表が「ドルの信認維持」に絞られていることだ。

 やりとりも、麻生が「ドルの信認維持が大事なんだという話をいろいろさせてもらった」と述べているだけだ。1時間20分の会談の半分を経済問題に費やして、最大のポイントに触れないのだろうか。国務長官・クリントンは訪中で「中国政府が米国債への信任を維持していることを高く評価する」と表明している。その中国がこれ以上の米国債購入をためらっているのである。中国に次ぐ世界第二位の米国債保有国である日本の首相に対して、その程度の発言もなかったのだろうか。元財務官・榊原英資もテレビで「ドルが基軸通貨と言うことを、今更なぜ言わなければならないのか。ドルが暴落しているわけでもないのに」といぶかっている。そして「ドル信認維持」の合意について、「今後相当な勢いで米国債を出さなければならないから、買ってくれ、というメッセージかもしれない」と述べている。

 麻生は記者会見で、「大統領から日本の米国債への期待感の表明はなかったか」と聞かれて「全くありません」と答えている。しかし明らかに首脳会談の方向性は、「米国債購入」で少なくとも暗黙の了解があったことを示している。確かに外交テクニックから言っても、露骨に「米国債を買え」とは、さすがのオバマも言えまい。しかしボディー・ランゲージはそうであったはずだ。おりからオバマ政権は76兆円の景気対策を打ち出しており、財源は米国債増発しかない。増発しても、買い手がつかなかったらドル暴落の危機となる。したがって日本国内には「ドル建てでなく、円建てで、米国債を購入すべきだ」という議論もあるのだ。おまけに外貨準備高は、国民があくせく働いて得た成果である。

 「日本は内需喚起を」というオバマの発言への切り返しもない。米国発の危機のおかげでGDPが12.7%まで落ち込んだ問題はその材料になるし、「日本には円建て米国債の話もある」などと鎧をちらつかせても良い状況であろう。日本の外貨準備高と、その内訳における米国債が、他の先進国と比べて群を抜いて高く、逆に金の保有率が異常に低い点も説明すべきであろう。要するに“対等の日米関係”アピールの絶好の機会であったはずだ。「米国が保護主義なら、フランスも保護主義」と述べた仏大統領・サルコジの発言は言いすぎでも、少しは見習っても良い。

 会談の最後の1分を、麻生の呼び掛けで両首脳が部屋の隅に行き、何事かをオバマに話しかけ、オバマが「日米関係は安全保障の礎です。ありがとう」と答えた言葉が、マイクに拾われたのが気になる。麻生がまさか「米国債買うからね」と言ったとは思えないが、事々左様にこの会談は秘密のベールに覆われている。暴落のリスクがわずかでもあれば、当然国民はそれを知った上で米国債購入に踏み切るべきだろう。それをしないのはなぜか。一にかかって麻生が「また重荷を背負わされた」と世論や国会で批判されるのを恐れたからにほかならない。それでは米国債購入はこれまでのように、事務当局がある時発表して終わりというマターか。そうでない。いまや重要な政治外交課題となっているのである。 
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