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2008-11-25 09:00

経済危機下のアメリカからの報告

池尾 愛子  早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
 アメリカの感謝祭は11月の第4木曜日に設定され、そのルーツは原住民たちが秋の収穫を祝ったことに遡られる。今年は27日で、その日を含めて数日間、アメリカの大学の授業は休講になる。街では12月を待たずして、クリスマスの飾りつけが始まっている。地元の大学にいるポスドク(課程博士号取得後の研修者)、プレドク(博士号取得に向けての研修者)、客員研究員には、医学、生物化学・生命科学を専攻する人が多いようで、研修や独自の実験・観察に励んでいる。理論核物理学の研究のために滞在している外国人たちも目を引く。感謝祭休暇明けには、期末試験、期末レポートの提出があるので、学生たちはゆっくりくつろげないようだ。私が接する教授や学生は限られているが、日本流にいえば金融機関から「内定取消し」(cancelled job offer)を受けた学生がいる一方で、採用間口を広げたコンサルティング業に向かった学生たちもいる。

 6月24-25日付けの本欄で書いたことの事後報告がある。地元のいくつかの大学に所属する客員研究員向けにカーリース・ビジネスを展開していた人たちは、ビジネスを軌道に乗せて、大学院生にまでカーリースの対象を広げている。ただ、学生を相手にし始めると、常に注意喚起が必要になり、電子メールのニュースレターが不定期に届くようになった。ビジネス改善のための会合への招待状も届いている。しかし、10月に緊急の引越しをして、アイハウス(国際部)と所属学部の両方の支援を受けて事後処理をしているところなので、参加は難しい。

 アメリカでは、投資銀行リーマン・ブラザーズの連邦破産法第11条の適用申請(9月15日)直後から、貪欲(Greed)批判が高まっていた。政治学と経済学の2人の教授が担当する政治経済思想(17-18世紀)のコースがあり、都合で週2回のうち1回出席している。現実の動きにも注意を払いながら、マンディビル、ロック、ヒューム、オースティン、スミスなどの古典を自由に解釈させる授業である。政治学の教授・学生とも、メディアの論調そのままに、貪欲批判の先鋒となった。貪欲が資本主義を動かすとともに、度が過ぎて資本主義をトラブルに陥れたという解釈である。しかし、11月14-15日のワシントンDCでの20カ国金融サミットは、そうした声を鎮めて、アメリカの危機意識を浸透させ、さらにシティグループの5万2千人の人員削減計画の発表は、人々の心理に甚大な影響を与えることになった(シティグループに対しては、24日朝に政府支援が決定した)。また、ペルーの首都リマでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)にもブッシュ現大統領が出席し、「この経済危機の解決には18か月かかる」という声明を裏書きした格好になっている。このニュースは繰り返し報道された。

 先々週あたりからは、アメリカの自動車メーカー・ビッグ3の救済問題が表面化している。先週のペロシ下院議長(民主党)の記者発表を見る限り、見通しは否定的である。24日(月)午前の全米公共放送(NPR)は、年金問題特集の様相を呈していた。「企業年金の場合、当該企業が破産しても1万5千ドルまで公的保険で補償されるので、慌てないように」といった主旨に聞こえた。401k年金の受取りが既に大きく減少していることも強調されていた。また、テレビでは、個人向け金融コーナーの借金処理の相談の内容が深刻になっており、個人の自己破産の経験も報道されている。

 11月24日(月)正午に、バラク・オバマ氏は彼の経済チームを公式に記者発表した。財務長官にはティム・ガイスナー・ニューヨーク連銀総裁、国家経済会議(NEC)委員長にはラリー・サマーズ・ハーバード大学教授・元財務長官、経済諮問委員会(CEA)委員長にはクリスチーナ・ローマー・カリフォルニア大学バークレイ校教授、内政委員会委員長にはメロディ・バーンズ氏が指名された。上記2つの国際会議によって、世界金融・経済危機の深刻さは、アメリカでようやく共通認識となったといえるようで、オバマ氏は彼の経済チームが即座に職務に就くことを約束した。1月の就任日にも政策執行の署名をすることが伝えられている。「それでは遅い」と私でも思うが、侵すことのできない聖域があるのだろうか。最後に、第2次クリントン政権下でサマーズ氏がロバート・ルービン氏(ゴールドマン・サックス出身)の後任として財務長官を務めたことは、10月2日付けの本欄で書いたが、ガイスナー氏はこの2人の財務長官のもとで、アンダー・セクレタリーとして働いた経験があることを記しておく。
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