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2008-11-04 15:13

11月15日の国際金融会議に期待する

池尾 愛子  早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
 欧米の社会科学者たちが21世紀に伝えたいと考える20世紀の社会科学書に、カール・ポラニーの『大転換』(1944)がある。彼は、19世紀文明を成立させた4つの制度として、バランス・オブ・パワー・システム、国際金本位制、自己調整的市場、自由主義的国家をあげ、当時のヨーロッパの入り組んだ制度の核に、大金融家のロスチャイルド家がいたことを強調した。ロスチャイルド家は国家・政府の枠組みを越えて、ロンドン、パリなどヨーロッパ都市を中心に金融情報ネットワークを張り巡らし、利得動機に基づいて活動していた。彼らは、金融という強力なチャネルを通じて、多数の独立国家の政策決定に影響を及ぼし、ある程度の調整者としての役割も果たしていた。

 19世紀文明を解体させたのが、最初の世界大戦(1914-18年)であった。第一次大戦後、各国は協力して国際金本位制を復活させようとしたが、第一次大戦前の世界に戻ることはなかった。第二次大戦末期から、アメリカのブレトン・ウッズで連合国の経済専門職たちが会し、米ドルを基軸通貨とする固定相場制の構築と、国際通貨と金融の安定を目的とする国際通貨基金(IMF)並びに国際復興開発銀行(IBRD、世界銀行)を設立する原案が作成され、ワシントンDCに本部をおくことで各国政府に承認されていくことになった。1971年に米ドルと金のリンクが断ち切られた後、世界的視野に立って国際経済全般について先進国で協議することを目的とする経済協力開発機構(OECD、本部パリ)からも、国際通貨・金融の問題について積極的な提案がなされるようになった。ヨーロッパではOECDを経験したのち民間銀行で活躍する人たちがいる。1968年にIMFで基軸通貨を補完するために特別引出権(SDR)が創出された頃から、ヨーロッパでは独自に安定通貨に対する模索が始まったようであるが、欧州共同体(EC)・欧州連合(EU)への参加国の拡大を伴いながら、欧州中央銀行(ECB)をフランクフルトに置いて、2002年に実際の通貨ユーロを導入するに至る。この間、情報通信革命は民間の決済・金融システムを大きく変化させ、オンライン取引を普及させて、デリバティブや裁定取引を進化させていった。

 アメリカの政策志向の経済学者たちは、どちらかといえば民主党側についているようである。もちろん、実現可能な政策形成や国際金融制度の再構築のサポートをしていくものと思われる。しかし、「自由放任」を実現するためには、種々の古い規制を撤廃する必要が生じる場面がしばしばあることも忘れてはならない。また、アメリカのビジネス界を少し見つめればわかることであるが、民間投資銀行のゴールドマン・サックスのように、出身者が政府内部で重要な地位を得ているケースがある。例えば、ルービン氏が民主党クリントン政権下の1995-9年に財務長官を務め、「商品先物現代化法」(2000年)の準備を開始したほか、共和党ブッシュ政権下でアメリカ発の金融危機と現在闘っているポールソン財務長官も出身者である。要するに、ゴールドマン・サックスは両政党に人材を送り込んでいて、ビジネス界でも特異な地位を得ている。

 規制のないデリバティブ分野でも、民間会社が協会などを形成して、市場情報を収集・蓄積しているケースがある。彼らの行動を予想すれば、あっさり規制の導入を甘受するよりは、協会メンバーの利害と市場の発展を優先するような行動に出る可能性が高いであろう。各国の当局、国際機関とも、先進国の民間部門が絡む分野になると、規制も一筋縄ではいかなくなる。アメリカにいると、「民間部門でうまくいかなかったことについて、当局が規制の対象にすべきだといっても、人間が実施することには変わりはなく、従ってうまくいくという保証などはない」という声がよく聞こえてくる。バーナンキ連銀議長もそうした声の主の1人である。もちろん、日本の財務省や日本銀行などは、こうした国際金融事情を熟知しているに違いないと期待したい。アイスランド救済に日本が関与し、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などの処理が必要なことから、地域ごとでの解決案を束ねるといった、枠組みを超える調整が予想される。11月15日の国際金融会議は、第2のブレトン・ウッズ会議になるのであろうか。
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