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2008-07-07 09:32

(連載)国際経済学会世界大会からの報告(2)

池尾愛子  早稲田大学教授・デューク大学客員研究員
 第3に、今大会の底流にはIMFの活動に問題があるとの共通認識があり、国際金融アーキテクチャの調整の方向についての提案もなされた。合意はなかったが、3案を拾うことができた。まず、コロンビア大学のスティグリッツ氏(IEA次期会長に選出)は、チェンマイ・イニシアティブを拡張し、IMFの特別引出権(SDR)の機能を強化(復活)させる形でのIMF監視体制の強化を主張した。外貨準備はグローバル・レベルで行うことを提案し、中国などは外貨準備を減らすように求めた。また、彼は、金銀の両方が国際本位となる複本位制が不安定であったのと同様に、米ドルとユーロの2通貨が国際通貨の役割を果たすという事態も不安定さを免れないだろうとした。そして、イギリスが戦前に国際金融システム維持で果たしてきた役割を、終戦末期にブレトン・ウッズでアメリカに譲り渡したのであるとまで主張した。

 それに対して、中国社会科学院世界経済政治研究所の余永定(Yu Yongding)氏は、アメリカの経常収支赤字(米ドル流出)対策はアメリカ自身で行うべきだと反論した。彼は、東アジアでの国際金融の安定性を確保するためには「アジア通貨基金」か「それに相当する地域経済機関」の創設が望ましいと提案した。後で余氏に直接確認すると、「アジア通貨基金」設立という提案(もともとは日本案)の趣旨は、通貨スワップ協定からなるチェンマイ・イニシアティブを拡大する形で、地域金融協力を束ねることによって、世界の金融の安定化を図るべきとの由であった。フロアから、IMFを批判する一方で、IMFに頼る提案をする、スティグリッツ氏の議論には矛盾がある、との指摘もなされた。

 なお、カルヴォ会長(アルゼンチン出身、国際機関経験者)は、国際金融統合の進むなか、IMF介入の問題を指摘しながら、「世界中央銀行(Global Central Bank)」を創設する持論を大会初日に披露した。世界中央銀行の提案は思想史上、新しいものではない。ただここでは、統計的直観力と分析力を生かしたカルヴォ氏自身の研究が、IMFの提供するデータベースに大きく依存していることは指摘しておきたい。近時の国際機関は、経済社会データベース生成に大きな役割を果たしており、有効なデータベースの構築には研究と経験が欠かせないはずである。ヨーロッパでは経済通貨同盟(EMU)や欧州連合(EU)の経験があるが、米州大陸での地域金融協力を構想しにくいのは、アメリカのプレゼンスが余りに大きすぎるからである。現状を打開するためには、米州地域を越えたアーキテクチャ構築の必要性が感じられるのではないだろうか。他地域から詳細な提案があれば耳を傾け、地域間の差異も視野に入れて、東アジア経済に有効な金融アーキテクチャ構築を提案する工夫が必要なように思われる。(つづく)
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