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2008-06-13 08:18

首相の感情も“危険水域”

杉浦正章  政治評論家
 追い込まれると為政者の感情は乱高下するものだが、最近の発言から見ると、首相・福田康夫もその例外ではない。分析すると、その心理状態が克明に分かってくる。一種の躁(そう)と鬱(うつ)の状態が繰り返され、強い精神力の持ち主は克服するが、古くは田中角栄、直近では安倍晋三のように、最終的には政権を投げ出すようなケースに陥る。福田の場合もかなり極端だ。4月の党首討論では、自らを「かわいそうなくらい苦労している」と発言して、涙ぐんだものだが、首相問責決議案が可決された11日には、「(ねじれ国会の)犠牲者は私ですよ」と嘆いている。

 ところが、内閣信任決議が可決された12日は、幹事長・伊吹文明らとの夜の会合で一転して「今ほど政府・与党が一体となっている時はない。乱気流にあえて突っ込んでいく」と、極めて意気軒高となった。内閣信任決議に造反が一人も出なかったことに、ご機嫌であったということのようだ。しかし、首相の感情が乱高下するのは“危険”な兆候とみなければならない。金脈問題の追及を受けた首相・田中角栄も、極端だった。それが端的に表れたのが、「解散で中央突破」か「総辞職」かの選択の変化であった。末期には午前と午後で考えが180度変わった。新聞もこれに乗せられて「解散」と走る新聞も見られたが、結局総辞職した。安倍晋三の場合は、ぎりぎりまで感情を隠し通したケースだが、参院選大敗後9月12日の辞任までの間は、相当な感情の起伏があったようだ。

 福田の場合はどうか。今は「乱気流にあえて突っ込む」と、まるで特攻隊のような当たるべからざる勢いだが、この“勢い”が強すぎて、かえって危なさを感ずる。目の前に待ち受けている深淵を考えると、通常人ならぞっとするに違いない。首相就任後は、疫病神にたたられたように、ろくな問題が起きていない。消えた年金、防衛次官汚職、後期高齢者医療制度などが、次々に政権を襲いかかり、そして「居酒屋タクシー」問題まで付録についてくる。支持率も20%前後と危険水域に入っている。ほとんどが、「自民党をぶっつぶす」と格好をつけた首相・小泉純一郎の尻ぬぐいばかりである。そして本当に自民党は「ぶっつぶされかねない」ところまで来た。普通の人間なら投げやりになってもおかしくない。

 野中広務が「我慢強い」と言うくらいだから、打たれ強いのかもしれないが、人間の精神力には限界がある。内閣信任決議では、落ちこぼれはなかったが、後期高齢者問題などが作る政局では、今後与党内からいつ不満が噴出しないとも限らない。福田が本当に強気で政局の突破をはかるかどうか、のメルクマールがある。森喜朗が「福田君は考えていない」といい、福田自身が「白紙」と態度を鮮明にしていない内閣改造だ。サミット後にも改造に踏み切れば、当面は強気の政局運営に舵を切るのだろう。踏み切らなければ、悩むハムレット路線で感情の起伏の幅がだんだん短くなり、最後には安倍のようにぷっつんと“切れる”かもしれない。予想としては恐らく改造せざるを得まいと見る。
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