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2008-04-07 19:32

ロスチャイルド財閥の誕生と情報の勝利

岩國哲人  衆議院議員
 200年前に、情報を重視する一人の男がいた。ロスチャイルドである。ロスチャイルド家ほど世界に広く名を知られ、また実際に影響を及ぼした財閥はないだろう。19世紀にヨーロッパ政治を金融面から動かした一族は、今日もなお地球規模で旺盛な事業意欲をみせて、「不死身」とか「不死鳥」の名をほしいままにしている。1968年からその大番頭の一人だったジルベール・ド・ボトン氏は、スイスとロンドンを行き来しながら、日興証券との取引を大切にする人だった。私のロンドン、パリ勤務時代にもよく食事を共にした。陽気で、恐ろしく頭の回転が早く、その聡明さとすさまじい集中力で、ジルベールは出会った相手を次々にとりこにし、その一人がロスチャイルド家の当主、ジェイコブ・ロスチャイルドだった。ロスチャイルド家にまつわる伝説などを、ロンドンのシティーにあるロスチャイルド本社の奥深いダイニング・ルームなどで、ジルベールは私にいろいろと話してくれた。
 
 フランクフルトの零細な両替商が世界財閥にのし上がってゆく成功物語の大きなカギは、ナポレオンにあった。ナポレオンはアウステルリッツの勝利のあとも勢力を拡大したが、英国封鎖に失敗し、ロシア遠征に挫折した後、武運に見放されて失脚し、エルバ島に流刑となった。一年後にその島から脱出して、1815年6月、雨のワーテルローでウェリントンの英軍と対決し、敗れた。このときロスチャイルドはその情報戦に勝利し、巨大な財産のいしずえを築くことになる。ワーテルローで、もしナポレオンが勝てばイギリスの命運は風前の灯となり、その国債は暴落して紙切れ同然となる。反対にウェリントン将軍が勝てばイギリス国債は暴騰する。歴史はどう展開するか、イギリス中が天下分け目の戦いの行方を凝視していたとき、欧州各地に張りめぐらせて、どこの政府の駅伝網よりも早いという定評を誇ったロスチャイルド家の情報網が、ナポレオンの敗北、英国の勝利をつかみ、その情報をロンドンにもたらした。
 
 取引所に姿を現したロスチャイルド家のネイサンはしかし、英国債を買うどころか、沈痛な面持ちで逆に売り始めたのだ。市場関係者はロスチャイルドだけが持っている早耳の情報が、英国の敗北だったと受け止め、パニックに陥り、一斉に英国債を売り出し、相場は暴落に暴落を重ねた。ロスチャイルドが英国債を買い始めたのは、価格が充分に暴落したことを見届けてからだった。ドーバー海峡を越えてウェリントンの飛脚がロンドンに到着し、英国の敗北ではなく、英国の勝利を政府に伝えたのは、その翌日のことだった。ロスチャイルドの行ったことは、一見して非道に思えるが、資本主義の冷徹な社会のルールでは、情報網の設置・維持コストは、結果として正確な情報の入手を怠った者たちが、取引の損失という形で負担させられたことを意味している。情報は金、それこそがロスチャイルド家の武器であり、繁栄の秘密だった。
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