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2008-01-15 16:17

オーストラリアの政権交代が意味するもの

福嶋 輝彦  桜美林大学教授
 年が明けて米大統領選での民主党党員集会で、オバマ候補が「変化」という言葉を唱えて善戦した。 ここから思い起こされるのが、昨年11月のオーストラリア総選挙での政権交代劇である。議員になってから10年に満たない野党のラッド労働党党首は「変化」を前面に押し出して選挙戦を戦った。これに対して、経済は長期の好景気という与党断然有利な状況下で、40%台という11年の長期政権にしては異様に高い支持率を誇るハワード首相は、自らの「実績」をアピールするとともに、野党の「経験」不足を執拗に攻撃した。にもかかわらず、自由党と国民党の保守系連立与党は完敗を喫したのである。

 それでは、ラッドが唱え、百戦錬磨のハワードを一敗地にまみれさせた「変化」とはいったい何だったのか。それはラッドが巻き起こす「変化」というよりは、ハワードに幕を引くという意味での「変化」にほかならなかった。ハワード政権は、9/11以来の国民のテロやイスラム原理主義への恐怖に乗じる形で、対テロ捜査や難民受け入れで、厳しい強硬姿勢を貫くことで国民の高い支持を集めてきた。それを楯にする形で、石炭輸出という国益を守るとして京都議定書の批准を拒否する一方で、ハワード自身の長年の野望でもある労働市場の抜本的自由化政策を強行した。有権者が「変化」を求めたのは、与党のこうした権力に酔ったかのような姿勢であり、ハワード首相自身が落選に追い込まれたことはそのことを象徴していると言っていい。

 一方で労働党は、イラクから撤退するにせよ訓練要員は残す、対テロ対策には厳しく臨む、健全財政は継承する、労働市場自由化にしても労働組合が要求するような即時撤廃はしないと、概ねハワード路線を踏襲する姿勢を打ち出している。それは、ハワードの「悪乗り」は許さないが、長期の繁栄をもたらした改革路線は逆行したくない、という有権者の声を反映したものであった。言い換えれば、ラッド首相率いる労働党政権も「変化」を唱えながらも、維持すべき改革は明確に認識していると言えよう。ところが、翻って日本において、これまでの改革のどの部分を継承・発展させていくのか、福田政権にしても、民主党にしても、今一つしっくりこない、という気持ちを抱いているのは、筆者だけであろうか。
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