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2008-01-13 00:17

政府も国民も「最悪事態」と「優先順位」を常に考えよ

小笠原高雪  山梨学院大学教授
 このところ新型インフルエンザの脅威に関する報道が増えているが、それらによれば、この問題に対する政府の準備はきわめて遅れているようである。米国政府はすでに三億人分のワクチンの確保を目指して具体的な作業に着手し、半年後には達成する見通しであるという。もしわが国において感染爆発といった事態が起こり、多数の犠牲者が出るようなことがあったとしたら、それは「不作為の罪」に相当するのではなかろうか。政府の準備の遅さはもちろんであるが、野党やメディアの反応がおしなべて鈍いことも、それに劣らず不可解である。

 結局、問題の根底にあるものは、「常に最悪事態を想定しておく」という心構えの欠如であると思われる。最近は「安全保障概念の変容」ということが言われ、「軍事以外の安全保障」に関する議論が活発であるが、それも「安全保障」を名乗る以上は、「常に最悪事態を想定しておく」という心構えの上に成り立つものでなければならない。私は高校生の頃、ある著名な国際政治学者が「所詮、まともな防衛論のできない国民に、まともな安全保障論をできるはずはない」という趣旨のことを述べているのを読んだことがある。当時はその意味を十分に理解できなかったが、これもおそらく「常に最悪事態を想定しておく」という心構えの重要性を説いたものであったのだろう。

 問題はそれだけではない。米国政府はワクチンの準備が完了しない段階で感染爆発が始まった際の優先順位も決定ずみであるという。具体的には、政府関係者、軍、警察、消防、病院などが優先されるそうである。ありていにいえば、一般市民に対するワクチン投与はその後ということである。感染爆発を早期に抑えるために公共の安全に直接関わる分野を最優先する。・・・・考えてみればまったく合理的だが、現在のわが国において、このようなことを冷静に検討し、冷徹に実行することができるであろうか。「公務員バッシング」ばかりが盛んな昨今では、なおさら困難なのではなかろうか。

「最悪事態」せによ、「優先順位」にせよ、そのようなことを考えずに済むならば、それに越したことはない。しかし、社会の危機はさまざまな方面から起こりうるし、それらに合理的な備えをすることこそは、国家の最大の存在理由であろう。「所詮、まともな防衛論のできない国民に・・・・」という碩学の言葉がよみがえる。
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