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2007-11-22 19:18

経済構造改革とは何であったのか

湯下博之  杏林大学客員教授
 11月9日付の日本経済新聞は「首相、新成長戦略を指示」との見出しで「福田康夫首相は8日の経済財政諮問会議で『新しい成長戦略のコンセプトや政策のメリハリのつけ方について早急に検討を開始してほしい』と述べ、成長力を強化する新経済戦略の策定を指示した。諮問会議で11月下旬から議論を開始し、政府が来年1月にまとめる経済運営の中期指針『進路と戦略』に反映する」と報じた。同紙はさらに「具体的には中小企業やサービス業の生産性向上、経済連携協定(EPA)の加速、対内直接投資の促進、規制緩和の促進、法人税負担の軽減などが検討課題にあがりそうだ」としている。

 この話は、その後各方面での大きな議論の対象になっているようには見受けられないが、国を挙げて真剣に考え、コンセンサスを得た上で、全力を挙げて取り組むべき問題であると思う。というのは、この問題は、わが国が過去数年にわたり取り組んで来た経済構造改革の未完成の部分であり、この問題の処理なくしては、経済構造改革の成果はあがらないと思うからである。そもそも、経済構造改革とは何だったのか、何が問題で、何をしようとしたのか、を考えてみれば、このことは明らかになる。私の理解では、経済構造改革とは、バブルがはじけた後の日本経済について、設備の過剰、雇用の過剰、債務の過剰の「三つの過剰」を整理するとともに、生産性の低い分野を減らし、生産性の高い分野での経済活動をふやして、経済の成長力を回復するというものであったと思う。かくて「改革なくして成長なし」と言われたのである。

 しかしながら、これ迄に実際に起ったことは、「三つの過剰」を整理することだけであった。これだけでは、企業、特に大企業は身軽になり、利益が得られるようになっても、「雇用の過剰」の整理の結果、正社員雇用は減り、国全体として経済が上向くことにはなりにくいのは当然である。「三つの過剰」を整理するだけでは、一時的には景気が悪くなるので、そのあとに大企業が立ち直り、徐々に雇用や設備投資が増えるとしても、その程度は知れていると言ってよいだろう。経済が全体として成長するためには、経済構造改革の残された部分、即ち、生産性の低い分野を減らし、生産性の高い分野での経済活動をふやして、経済の成長力を回復することを実現することが必要である。そうしてこそ、「過剰」としていったんは整理された雇用についても、円満な解決が得られるというものである。

 日本経済新聞が指摘した「中小企業やサービス業の生産性向上、経済連携協定(EPA)の加速、対内直接投資の促進、規制緩和の促進、法人税負担の軽減など」は、この問題を考える上での重要な検討課題であることは間違いないが、問題はその先である。検討と一応の結論で終わってしまうことになっては、日本国民の不幸である。是非、国を挙げて議論を盛り上げ、コンセンサスを得て、国全体として全力で実現に取り組むことが大切である。何とかして、そうしたいものである。
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