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2025-11-28 21:00

習近平国家主席は誰のために仕事をしているのか?

倉西 雅子 政治学者
 深刻度を増している台湾問題に関しては、中国の習近平国家主席が人民解放軍の創設百周年に当たる2027年が目標年とする説が有力です。‘中国政府に近い北京の大学関係者’の語るところに寄れば、2027年は三期目の国家主席の任期が切れる年であるため、四期さらには終身国家主席の座に得るためには、台湾併合という実績を示す思惑も働いているそうです。しかしながら、この横暴な計画を聞くにつけ、習国家主席は、一体誰のために仕事をしているのか、疑問が沸いてくるのです。
 
 台湾の併合は、中国共産党の‘悲願’ともされています。ところが、この計画は、中国が国家イデオロギーとして奉じている共産主義とは全く無縁のものです。共産主義思想は、労働者の‘解放’をスローガンとして掲げた暴力主義革命を引き起こしたとはいえ、その祖とされるカール・マルクスでさえ、軍事力による領土併合を是とはしていません。中国人の所得水準や労働環境に照らしてみれば、‘台湾の労働者を解放するために人民解放軍を派遣する’などと叫ぼうものなら、失笑を買うことでしょう。中国共産党の‘悲願’とは、共産主義をはじめとした政治思想とは全く関係のない、あくまでも、‘中国共産党’という名の政党、否、中国という国家の‘領土拡張計画’に過ぎないのです。しばしば、習主席は、建国の父とされる毛沢東と並ぶ存在に自らを祭り上げる野望を抱いているとされますが、台湾併合に関しては、習主席は、イデオロギーのためではなく、個人的な野心のために仕事をしていることとなりましょう。
 
 その一方で、国家の指導者というものの存在意義が、国家の安全を護り、国民のために働くことにあるならば、習主席は、自らの役割を果たしていないと言わざるを得ません。台湾に軍事侵攻すれば、それは、即、アメリカとの戦争を意味しますので、人民解放軍はもちろんのこと、中国の一般国民にも多大なる被害が及びます。経済統制の強化による生活の窮乏化のみならず、急激な経済成長をもって建設した中国各地の近代都市も瓦礫と化すリスクもあるのですから、一般の中国国民が台湾侵攻を歓迎するとは思えません。しかも、清朝時代の一時期に直轄地に過ぎなかった台湾の歴史、並びに、内陸部まで広がる広大な中国国土を考慮しますと、中国国民にとりましては、台湾有事とは、自らとは関係のないところで‘指導者’によって引き起こされた人災でしかないことでしょう。台湾併合によって国民が拍手喝采をおくる中で終身国家主席の座を手にするという、古びた演出とシナリオは、時代遅れでもあると共に、独裁者の幻想、あるいは、独裁体制の樹立に際して国民に一方的に押しつけるためのイベントなのかもしれません(なお、台湾併合に失敗すれば、自らの失脚のみならず、一党独裁体制も崩壊もあり得るため、習主席にとりましてもリスクは高いはず・・・)。
 
 かくして、習主席による台湾併合が、共産主義のためでも、中国国民ためでもなく、個人的な野心の実現のために計画されている疑いは深まるばかりです。もっとも、台湾併合において顕著に見られる共産党一党独裁体制の矛盾、あるいは、人々を唖然とされる支離滅裂さは、共産主義、あるいは、共産党という組織の真の設立目的が、隠されてきたことにあるのかもしれません。幅広く社会全体に根を張る政党組織の設立は労働者を動員するには好都合ですし、プロレタリア独裁の目標は、共産党一党独裁体制の擁護に役立ちます。さらには、世界各国に共産主義ネットワークを張り巡らすことができますので、外部から各国を遠隔操作する‘ディバイス’ともなり得るのです。
 
 2027年を目処に、習主席が台湾併合の‘実績’をアピールしようとしているのであれば、同‘成果’の評価者は ‘外部’に存在し、その人物、あるいは、勢力こそ、中国の国家主席に関する人事権を握っているのかもしれません。他の誰をも怖れる必要のない絶対的な独裁者であるならば、最早、自らへの評価を気にする必要もないのですから。今日、資本主義と共産主義は共にグローバリストであるという点において同根であるとする見方が広がってきていますが、習主席も、グローバリストの描くシナリオを実現するために‘仕事’をしている、否、役割を演じているとしますと、その常識を逸した行動にも‘説明’が付くように思えるのです。
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