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2007-11-20 12:05

私の記憶の中の「冷戦」

佐島直子  専修大学教授
 本欄への私の10月22日付け投稿(382号)において、「記憶としての冷戦」が急速に遠ざかっている、と書いた。思うところがあり、しばらく「冷戦」の記憶を追ってみたい。私は2001年に19年勤務した防衛庁(当時)を退官し、専修大学に奉職したが、防衛庁を辞めた理由はただ一つ、「元気になりたい」からだった。実は1998年4月に一人娘裕美(ゆみ)が急逝し(享年19歳)、当時の私はその喪失感からなかなか立ち直れずにいた。大学で娘と同じ年頃の学生達と接することで元気になれるかもしれない、否、生き直すことができるかもしれないという、すがるような思いが40代半ばでの転身理由である。
 
 幸い、私の思いは通じたようだ。専修大学の学生達が私の心の空白を埋めてくれた。彼らと泣いたり笑ったりしながら、私は心身の健康を取り戻した。私が「今」を生きているのは彼らのおかげである。しかし、「娘のいない世界」を生きているのはいまだに不思議である。娘のことを思い出さない日はないし、今でも眼前の事象のひとつひとつに「裕美にはどのように説明しようか?」「裕美だったら、なんと言うだろうか?」「どう思うだろうか?」と独り言してしまう。

 とまれ、娘と生きた19年の大半は、私が防衛庁職員として働いた期間に重なる。そして、とりわけ思い出多い前半の10年間、私は幼い娘の子育てに奮闘しながら「冷戦」を戦っていた。私にとって幼い娘を思い出すことは、冷戦という時代を思い出すことでもあるのだ。退官した年の9月に上梓した『誰も知らない防衛庁』(角川書店)も、私としては、あくまでも娘との思い出の一部を綴った私的なメモワールなのだが、編集部のつけた無作法なタイトルのおかげか、「冷戦時代の防衛庁」を知る貴重な(?)資料として巷間読まれている。

 私の見聞、それはナカの人間には当たり前だったこと、トウジは普通だったことばかりなのだが、それは防衛省の内側に好奇の視線を投げかけている「今」の読者を驚かせる。だから、「冷戦」を内部の人間として経験した私が、在野の視線で改めて記憶の糸を手繰りながら、「あの時代の防衛庁」を振り返っておくことも無駄ではあるまい。記憶としての「冷戦」を、綴って行きたい。
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