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2025-06-11 15:30

シリアと中東の今後

舛添 要一 国際政治学者
 トランプ大統領は、5月中旬に中東を歴訪し、対シリア制裁を解除する方針を明らかにした。シリアでは、2024年11月27日、50年にわたって独裁を続けてきたアサド政権に対して、反政府勢力が大攻勢を開始し、12月8日にアサド政権を崩壊させた。アサド大統領は、ロシアに亡命した。その背景には、アサド政権を支援してきたロシアがウクライナ戦争に集中せざるをえなくなり、シリアにまで手が回らなくなったこともある。この政変劇を主導したのは、イスラム過激派組織「シャーム解放機構(ハヤト・タハリール・アル・シャム、HTS)」である。アメリカは、これまでHTSをテロ組織に指定していた。
 
 シリアの内戦は10年以上も続き、国外に難民として約600万人が国外に出て、国内避難民も720万人にのぼる。たとえばドイツは約56万人を受け入れており、そのため移民問題が大きな政治的争点となっていった。移民排斥を掲げる極右のAfD(ドイツのための選択肢)が躍進するなど、ドイツ政治に地殻変動をもたらしている。それは、ドイツにとどまらず、欧米諸国に広まる傾向であり、その震源地となったのがシリアである。その意味で、今後のシリアの動向は、国際政治に大きな影響を及ぼす。アメリカでは、2017年1月にトランプが政権に就き、2018年4月にはトマホークミサイルでアサド政権側の施設を攻撃した。しかし、2019年になると、それまでのアサド政権打倒という政策を転換して、ロシアと共にIS掃討することを最優先にするとしたのである。そして、この年10月には、トランプは、シリア北東部から米軍を撤退させると表明した。

 こうして、トランプ政権がシリアから実質的に手を引き、ロシアはアサド政権を継続させることに成功したのである。アメリカの撤退により、中東におけるロシアのプレゼンスが高まった。シリアから利用を認められているタルトゥース港は、ロシアにとっては地中海に面した唯一の海軍基地である。同じく、ヘメイミーム空軍基地はアフリカ大陸への中継拠点として、ロシアにとって利用価値が高い。トルコやアラブ諸国は、ロシアのみならず、欧米諸国とも協力してアサド政権を支えていくしか他に手がないと考えたのである。ところが、昨年末に、アサド政権崩壊という予期せぬ事態が生じたのである。

 中東におけるアメリカの最大の関心事は、イランの封じ込めである。また、スンニ派の盟主、そして王制のサウジアラビアにとっては、革命の輸出を試みるシーア派の盟主イランは、イスラエル以上に忌避する対象である。2020年、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコ、スーダンがイスラエルと平和条約を締結し、国交を正常化した(アブラハム合意)。これらの国は、イスラエルよりもイランのほうを脅威に感じていると言ってもよい。トランプは、サウジアラビアのみならず、新生シリアにもアブラハム合意に参加するように求めている。今回の中東歴訪も、トランプにとってはビジネスの旅であり、シリアへの制裁解除の見返りに、サウジから1420億ドル(約21億円)の武器輸出を含む6000億ドルの対米投資を取り付けた。しかし、ガザでの和平の構築はまだである。「ディール」外交のみで、全てが片付くわけではない。
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