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2024-07-19 14:07

(連載1)怪物化するグローバリスト-ルソーの洞察

倉西 雅子 政治学者
 今日、全世界で起きている不可解な出来事の背後には、怪物と化したグローバリストのシルエットが浮かび上がっているように思えます。13日に発生したトランプ前大統領暗殺未遂事件についても、クルックス容疑者と世界最大の資産運用会社であるブラックロック社との関係が取り沙汰されても、今や誰もが驚かないかも知れません。むしろ、点と点がつながり、線となったように感じた人の方が多いことでしょう。グローバリストの隠然たるマネー・パワーは暴力としても顕在化しており、テクノロジーによる強制力も加わって、誰もが手を付けられない‘暴君’と化しているようにも思えます。

 古代ギリシャの時代から、人々は暴君(僭主)の出現を恐れてきたのですが、民主主義の時代に絶対君主さながらの‘暴君’が出現したのは、余りにも皮肉なことなのです。今日に至るまで、多大なる犠牲を払いながらも民主的な制度が発展してきた理由の一つは、他者の生殺与奪の権を握り、権力の私物化と濫用により人々を苦しめる暴君の出現を防ぐ必要性があったからに他なりません。民主的選挙とは、国民が為政者の人事権を持つことによる暴君出現阻止制度としても理解されるのです。ところが、現代民主主義国家のモデルとされ、草の根デモクラシーが根付いてきたアメリカにあっても、知らず知らずの間にマネー・パワーに浸食され、民主主義は風前の灯火のような状態にあるのです。

 かつての暴君とは違い、現代の暴君は、政治の表舞台で君臨するのではなく、姿を見せずに忍び寄る‘ステルス暴君’でもあります。しかしながら、その貪欲な支配欲という本質は変わりなく、また、その支配の手段や手法も似たり寄ったりなところがあります。このため、同問題を考えるに際しては、過去に書き記された暴君を分析した書物や文献も大いに役立つのです。この点、最近、ジャン・ジャック・ルソーが残した『人間不平等起源論』という書物の中に、興味深い一節があることに気がつきました。同書自身は、ルソー自身は否定してはいるものの、“原始時代の自然状態を人類の理想郷と見なした”と解されたため、出版当初より批判を浴びています。また、その‘不平等の起源’そのものや、論理構成にも重大なる難があるのですが、人間社会に対するルソーの鋭い洞察力と分析だけは、人類に警告を与えたという意味で評価されるように思えます。

 それでは、このルソーの分析とは、どのようなものであるのかと申しますと、「・・・自分の利益のためには、実際の自分とはちがったふうに見せることが必要だったのである。あること(存在)と見えること(外観)がまったくちがった二つのものとなった。・・・そして、事実上または表面上、彼の利益のために働くことが自分たちの利益だと思わせるように努めなければならない・・・」というものです。この文章は、取り立てて暴君批判の文脈として書かれたわけではないのですが(人間の一般的な心理傾向として指摘している・・・)、今日のグローバリストの行動様式に照らしますと、まさしくこの指摘が当て嵌まっているように思えてきます。(つづく)
 
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