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2024-01-23 18:07

‘偽確定情報’の悪意の流布のみが‘デマ’では

倉西 雅子 政治学者
 近年、生成AIの登場もあって、‘偽情報’のリスクが声高に叫ばれるようになりました。かの世界経済フォーラムも、2024年版の報告書では、短期的なリスクとして「誤報と偽情報」を挙げています。同フォーラムの場合には、自らに対する批判を‘偽情報’としてかわしたい思惑が透けて見えるのですが、コロナ・ワクチンをはじめ、能登半島地震や羽田空港衝突事故などにあっても、政府がデマと断言するケースが散見されます。しかしながら、政府による‘デマ断定’に対しては、国民が慎重であるべきは言うまでもありません。何故ならば、そこには、‘政治的’な意図が隠されている場合が多いからです。それでは、‘デマ’とは、一体、どのような情報なのでしょうが。‘デマ’はギリシャ語由来の略語であり、英語ではデマゴキーです。もともとは政治的扇動を意味しますので、必ずしも虚偽性を含んだ言葉ではありません。英語圏では、政治的先導者を示すデマゴーグは頻繁に使われるものの、デマという表現については、日本国ほど日常的に使用されているわけではないようです。半ば和製英語とも言えるのですが、少なくとも日本国内にあっては、デマは、政治的扇動の意図の有無に拘わらず、偽情報一般を意味します。しかも、不特定多数の人々を騙したり、惑わす意図をもって流された悪意の偽情報というニュアンスを帯び、批判的な言葉として理解されているのです。因みに、誤情報という表現の場合には、悪意性が著しく薄まります。

 このため、政府が一度‘デマ’と断定しますと、国民の多くは、デマとされた情報の発信者に対して批判的になりがちです。多くの国民が偽情報と認識し、同情報の情報価値を否定するようになります。しかしながら、その一方で、政府によるデマ認定には、世論を萎縮させたり、国民を思考停止に至らせる心理的な効果もありますので、仮に、政府が、デマ、即ち、偽情報ではない情報をデマと決めつけた場合、これは情報統制、あるいは、世論操作が疑われることとなります。さらに、後日、デマ認定した情報が事実であることが判明した場合には、政府の方の信頼が失墜してしまうのです。例えば、コロナ・ワクチンについては、当時の河野ワクチン接種推進大臣が同ワクチンに対するマイナス情報を‘デマ’と決めつけながら、その後、健康被害を否定し得なくなる状況に直面したために、国民からの信頼を失った事例があります。政府によるデマ認定が政治的な意図をもった政策(コロナ・ワクチンの場合は国民のワクチン接種の推進・・・)であった実例となったのですが、ワクチンのケースでも、医科学的な根拠のある疑問さえもデマとして葬り去られたため、ワクチン被害の拡大が放置される結果を招いたとも言えましょう(もっとも、未だに政府は健康被害とワクチンとの関連性を公式には認めていない・・・)。

 政府の‘デマ’の一言でリスクが見逃されてしまうリスクは、過去の経験からしても由々しき問題です。そこで、こうした事態を防止するためには、政府によるデマ認定には、条件を付すべきではないかと思うのです。言い換えますと、不確定情報については、基準を設けて分類を行なうのです。先ずもって、デマ、即ち、偽情報と明確に分類される情報とは、文字通り、全く事実とは異なる創られた情報です。例えば、宇宙人の襲来と言ったSFのような情報なのですが、このケースでも、政府は、誰もが納得する証拠を添えて、それが事実無根の虚偽であることを説明する必要がありましょう(もっとも、国民の大半は、あまりの荒唐無稽さにパニックに陥ることなく冷静に受け止めることでしょう・・・)。また、政府による情報提供が不十分な場合、推測部分が‘尾びれ’となって結果的に偽情報となってしまうケースもあります。この場合には、政府による説明不足も原因していますし、また、災害時などでは被災者を慮っての政府批判もありましょう。付加的推測のケースでは、政府は、正確かつ詳細な情報の提供によって‘尾びれ’部分を否定すべきとなります。

 その一方で、注意を要するのが、必ずしも虚偽とは言い切れない情報です。例えば、真偽が客観的に検証されていない類いの情報です。こうした真偽不明の情報をめぐっては、(1)事実が未確認の情報、(2)技術的に起こり得るリスク、並びに、(3)物理的に起こり得るリスク・・・といった種類があります。事実に立脚した推理であったり、合理的な推測に基づく意見やリスクの指摘は、むしろリスク管理の観点から有益である場合があるからです。(1)の事実が未確認の情報に対しては、政府は、現時点では事実が確認されていない状況にあることを正直に国民に伝える必要がありましょう。危険情報が未確認の状態であることを国民が承知していれば、国民の多くは自ずと警戒し、自衛に努めるからです。(2)のケースは、ワクチン被害や人工地震等、今日の科学技術のレベルでは発生し得るリスク情報です。確認情報としてではなく、リスク情報として発信された場合には、むしろ、政府には、国民の命を守るために事実の確認を急ぐ義務が生じます。上述したmRNAワクチンについては、医科学的な根拠を有する専門家によるリスクの指摘もありましたので、政府によるデマ断定は、国民保護の義務を放棄したに等しくなります。また、人工地震やその他先端技術の攻撃的な使用の可能性についても、「環境改変技術敵対的使用禁止条約」も制定されているぐらいなのですから、政府にこそ、真摯な対応が求められるリスクと言えましょう。加えて(3)の物理的に可能なリスク情報とは、所謂謀略や陰謀、あるいは、外部からの工作活動によるリスクの指摘を意味します。例えば、羽田空港衝突事故については、公表されている公式の情報でさえ幾つもの不審点があり、単なる事故であるのかどうか、疑いがあります。過去を振り返っても、安部元首相暗殺事件のように不審点が残る事件は多く存在していますので、こうしたリスクについては、(2)の情報と同様に、政府にこそ、国民の安全のために厳正な調査を行なう義務がありましょう。

 以上に政府によるデマ断定について述べてきましたが、明らかなる‘嘘’ではなく、リスク管理を要する情報については、然したる根拠を示すこともなくデマとして頭から否定するのではなく、政府が責任を持って調査を実施し、事実を確認して公表する方が、余程、国民は安心し、政府に対して信頼を寄せることでしょう。この当然とも言える対応を怠る政府の態度こそ、如何にも幕引きを急いでいるように見え、リスクを指摘する情報の信憑性をより高めているのではないかと思うのです。
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