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2023-11-28 10:52

アメリカ中東外交の失敗

舛添 要一 国際政治学者
 ビンラディンに率いられるアルカイダは、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロを行った。アメリカはアフガニスタンに対して、ビンラディンの身柄を引き渡すように要請したが、タリバンが拒否したため、アメリは、10月にアフガンスタンに侵攻し、タリバン政権を壊滅させた。そして、米軍の駐留下で、新しい国作りが始まったが、アフガニスタンに統治能力のある政府を育てるには至らなかった。そして、バイデン政権は、2021年8月15日に20年間駐留した米軍を撤退させたのである。

 2003年3月20日、アメリカを中心とする西側諸国はイラクに侵攻し、サダム・フセイン体制を倒した。しかし、軍事介入の理由とされたイラクによる大量破壊兵器の保持というのは事実ではなく、しかも、20年後の今のイラクは、民主主義が定着するどころか、腐敗と政治的不安定に悩まされている。シリアでは、中東の民主化運動「アラブの春」に呼応して2011年に民主化を求める反政府デモが各地に拡大したが、アサド政権はこれを武力で弾圧し、内戦状態になった。2015年9月には、ロシアは、」アサド政権の要請に応える形で、イスラム過激派組織IS(Islamic State)を退治するという大義名分を掲げて、9月30日に空爆を開始した。トランプ政権は2019年10月、シリアからの米軍の撤退を決定し、アサド政権は軍事的勝利を確実にし、ロシアが存在感を増したのである。バイデン政権は、アメリカの軍事的プレゼンスが弱まっても中東が安定するように外交的な知恵を発揮した。それは、サウジアラビアとイスラエルを握手させて緊張緩和をもたらそうというものであった。
 
 ところが、ハマスのイスラエル攻撃で、その努力は水泡に帰した。パレスチナ問題を置き去りにして、国交正常化をしようとしているのではないかという焦りがハマスのテロ行為となったのである。そのハマスの目的は成功したとも言えるが、その代償は余りにも大きい。アメリカにとっては、イスラエルへの軍事支援を増大せねばならなくなった。ウクライナ支援に加えての財政支出である。また、二つの空母打撃群をイスラエル周辺に展開させることになり、米軍のプレゼンスを強化せざるをえなくなっている。イスラエル軍の空爆により、建造物、インフラをはじめガザは壊滅的な被害を受けている。どのような形で戦闘が終了するにせよ、その後の安定した秩序形成のためには米軍の駐留が必要になってくるかもしれない。そうなると、中東からの撤退をもくろんだトランプ政権、そしてバイデン政権の計画は実現しなくなる。
 
 アメリカでは、イスラエル・ロビーは強力である。そのロビーは、ユダヤ系団体のみならず、キリスト教の一派である福音派などによって構成されている。キリスト教福音派はアメリカ国民の4分の1を占めるアメリカ最大の宗教勢力であるが、「ユダヤ人国家イスラエルは神の意志で建国された」と考えており、イスラエルを支援している。下院共和党は、10月30日、イスラエル支援に、内国歳入庁の予算削減分の143億ドルを充てる緊急予算案をとりまとめた。この法案は11月2日、下院で可決された。バイデンは、イスラエル、ウクライナ、国境警備の予算1060億ドルの一括承認を議会に求めている。バイデンは民主党案には拒否権を発動するという。共和党案では財政赤字が300億ドル増える。来年の大統領選を前にして、イスラエル・ロビーの支援を得るための政治的駆け引きが始まっている。
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