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2023-07-20 10:09

動きだした鬼門の対中外交

鈴木 美勝 日本国際フォーラム上席研究員
◆米国務長官からの電話
 6月17日深夜、霞が関・外務大臣の執務室に電話がかかった。相手は米国務長官ブリンケン。バイデン政権の閣僚として初めて訪中するための専用機上からだった。普通なら訪問前に事務レベルを通じて日程が通報されるぐらいだが、極めて珍しいケースだ。外相・林芳正は地方での日程をこなして帰京し待ち受けた。が、電話会談は約10分、その内容は何のことはなかった。バイデン政権の基本姿勢について簡単な説明があっただけ。「ガクッと来た」というのが同席した外務省筋の偽らざる気持ちだった。しかし、機上からのこの電話には米側なりの配慮がにじんでいたに違いない。

◆日本外交の対中「トラウマ」
 昨年11月にバイデン・習近平首脳会談が対面初で行われたとは言え、今年2月、米国が中国の偵察気球を撃墜したのを機に、米中対立は一気に悪化。両国間に険悪な空気が漂う中、予定されていたブリンケン訪中は延期された。だが、5月、G7広島サミットで、日米欧が中国との対話と対中ディリスキングで一致。「中国に率直に関与し、我々の懸念を中国に直接表明することの重要性を認識しつつ、中国と建設的かつ安定的な関係を構築する必要がある」との共同コミュニケが採択された。
 ブリンケンはG7のお墨付きを得た形で訪中に踏み切った。いよいよ再開したバイデン政権の対中外交。当初、日本ではブリンケン訪中情報が広がると、「頭越し外交になるのでは・・」との声が漏れ始めた。無理もない。米国の対中外交には、日本政府が度肝を抜かれた対中外交“三大事件”があるためだ。第一に国務長官キッシンジャー(当時)秘密訪中後に電撃的に発表された翌年のニクソン訪中予定、いわゆる「第一次ニクソン・ショック」(1971年)、第二に天安門事件直後の大統領補佐官スコウクロフト極秘訪中(1989年)、そして第三に米大統領クリントンが9日間も中国を訪問し滞在したにも関わらず、日本、韓国には寄らずに素通りした「ジャパン・パッシング」(1998年)だ。

◆米中「大国益」への警戒感
 対中外交をめぐっては、日本のシニア世代外交官や外務省OBは今もって、トラウマを抱えている。これに対して、一部チャイナ・スクールを除く現役の外交官たちには、その種のトラウマはない。「昔と今とでは、日米関係の親密度と米戦略上の日本の重要度がまったく違うから、“頭越し”なんてまったく心配していない」——最前線に立つアメリカン・スクールの高官は自信満々だが、ある外務事務次官経験者は警戒感を隠さない。「日米関係は深化したので昔のような形での“頭越し”というのはないだろうが・・」としつつ、「アメリカは自国の国益だと思えば、何が何でもやってしまう国だよ」。言わば、「核クラブ」の軍事大国同士、GDP(国内総生産)で世界ナンバーワン、ナンバーツーの経済力を有する米中両国の関係だけに、衝突回避に向けて、日本などではあずかり知らぬ「大国益」に基づく妥協(ボス交)が作用する場面は十分あり得るということだろう。
 米中双方にとって当面の目標は、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)サンフランシスコ首脳会合の際の米中首脳会談開催。鋭く対立する先端技術分野などでウィン・ウィン関係をつくれるかが焦点となる。岸田政権もAPECサンフランシスコ会合を念頭に日中首脳会談への地ならしを急ぐ。この夏には、日本側のキーパーソン、秋葉剛男(国家安全保障局長)を、昨年に続いて中国に派遣する案が検討されている。(時事通信コメントライナー/2023/7/11配信より)
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