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2023-02-17 15:13

複雑な世界経済情勢

真田 幸光 大学教員
 最近は、国際原油価格は落ち着いていると筆者は認識しているが、今後再び、上昇するとの見方が出てきている。即ち、世界的な投資銀行であるゴールドマンサックスが、「今年、国際原油価格がバレル当たり100米ドル以上まで上がる可能性がある。」という見通しを出してきているのである。ゴールドマンサックスアジア太平洋天然資源リサーチ部門は、ブルームバーグに対して、「今年第3四半期国際原油価格がバレル当たり100米ドルラインを超えるだろう。」と予測した。世界最大の原油消費国である中国本土のウイズコロナ政策への展開による経済活動再開だけでも1日160万バレルの原油需要が追加され、今年の総需要が270万バレル増加、国際原油価格が昨年より高い水準で需要が形成されることにより、需給関係が崩れて価格が上昇するという見通しとなっている。ゴールドマンサックスが予想する今年四半期別の国際原油価格は、ブレント油基準第1四半期バレル当たり90米ドル、第2四半期95米ドル、第3四半期100米ドル、第4四半期105米ドルと徐々に上がると見ている。ロイター通信が各展望機関を通じて集計した今年の原油価格予測値(バレルあたり最低80米ドル、最高95米ドル)より高い見通しとなっている。ロシア-ウクライナ戦争後に再び団結したOPECプラスの減産も原油価格下落を防ぐ要因となるどころか上昇要因となるかもしれない。
 
 また、金GOLDの国際価格が1オンス2,000米ドルに近づいており、じわじわと上がってきている。金の市場は小さく、投機の資金も入りにくいが、金融市場の混沌が深まり、更に他に有用な投資案件が無ければ金の市場に資金がより一層入り込む可能性はある。こうした中、「昨年、新興国の中央銀行が大規模な金の買い取りに乗り出し、1年間、世界各国の中央銀行が買い入れた金が1,136トンに達し、1967年以降最大を記録している。金額では約700億米ドルに相当する。世界金協会(WGC)によれば、トルコ中央銀行が148トン、中国本土(62トン)、エジプト(47トン)、カタール(35トン)、イラク(34トン)、アラブ首長国連邦(25トン)、オマーン(2トン)などが金保有量を大きく増やした。また、ウズベキスタン(34トン)、キルギスタン(6トン)、タジキスタン(4トン)など中央アジア諸国も金買いに出ている。この中で、特に中国本土の中央銀行である中国人民銀行は昨年11~12月の2カ月間になんと62トンを買った報告されており、基軸通貨を意識した動きに出てくるのではないかとの見方も出てきている。そして、当然にこうした新興国の中央銀行をはじめとする金の購入が増え、金の国際価格は上昇している。昨年11月、1オンス当たり1,630.9米ドルにまで落ちた国際金価格は1月31日基準では1,945.3米ドルで19%以上に上がっている。
 
 更に、穀物価格に関してのニュースも出ている。即ち、ウクライナ政府・経済省のクディン次官は、今年のウクライナ国内の穀物収穫量は4,950万トンと、昨年見込みの5,100万トンを下回り、減少が今年も続くとコメントしている。2021年には過去最高の8,600万トンを記録したが、ロシアの侵攻で東部、南部、北部で占領や攻撃に遭い、農業部門が深刻な打撃を受けており、昨年に続き今年も収穫は厳しいと見られている。食糧価格の上昇、或いは高価格据え置きは続くかもしれない。
 
 そして、「感染力は強まっているかもしれないが、弱毒化しているであろう。」と期待されてきた新型コロナウイルスに関して、世界保健機関WHOは、「先月約1カ月間に発生した新型コロナウイルス感染症による死亡者数は前月対比で65%増加していたことが分かった。」と報告、弱毒化に関する見方に不安が出ている。即ち、世界保健機関(WHO)が公開した本年1月(2日~29日)の4週間に対する「新型コロナ週間疫学アップデート」によると、全世界で11万4,000人以上の新型コロナウイルス関連死亡者が発生したとしている。これは、直近の同期間に比べ65%の増加となっている。尚、新規感染件数は2,000万人で、直近の同期間対比で78%減少している。また、先月29日時点に於ける全世界の新型コロナ累計感染者数は7億5,300万人以上で、累計死亡者数は680万人以上と集計されている。そして、全世界で新型コロナによる死亡者数が増加したのは、中国本土の影響を受けた為と見られている。WHOはこの報告書で、同期間中に中国本土に於ける新型コロナ死亡者数が直近の同期間対比で244%増えたと明らかにしている。これは国別で最も高い死亡者増加率であり、次いで日本が46%、米国が31%となっている。一方、新規感染者数は世界的に見ると、減っており、中国本土は-85%で、直近の同期間対比で最も大幅に減ったと報告されている。新型コロナウイルスの見通しもなかなか安定してこない。
 
 年初より、不確定な要素がたくさん出てきており、先の読みにくい一年を予感させている。尚、こうした中、景気先行き不安定とインフレの継続が懸念されるとの見方もあって、米国は政策金利を再び引き上げ、更に欧州でも利上げを実施してきている。即ち、欧州の2つの中央銀行は、改善しつつあるとはいえ、記録的な高インフレに対処する為として、政策金利を引き上げた。欧州中央銀行とイングランド銀行による決定は、政策会議の後に行われ、ECBは基準金利を0.5ポイント引き上げて3%にすることを決定した。昨年7月以来5回連続の利上げとなっている。ECBのラガルド総裁は、ユーロ圏の景気減速が懸念される中にあっても、インフレ抑制を優先する意向を表明、「潜在的なインフレ圧力を考慮して、3月の次回の金融政策会合で更に0.5%引き上げる予定であり、その後については、更に議論する。」としている。ユーロ圏の消費者物価指数は1月に前年同月対比8.5%に低下し、インフレ率は3カ月連続で低下している。こうしたことから、ユーロ経済圏の景気減速が避けられないことは明らかである。10月から12月にかけてのGDPは、前四半期より0.1%増となっている。また、イングランド銀行は、主要金利を0.5ポイント引き上げて4%にすると発表した。10回連続の上昇であり、景気減速に対する懸念にも拘わらず、インフレを抑えるという中央銀行の決意を示した。複雑な世界経済情勢となっている。
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