国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2022-12-23 13:20

岸田増税:財政赤字悪化、国債格下げとなるか

大井 幸子 国際金融アナリスト
 気になる増税のニュース、防衛費捻出のために法人税を上げるとか。企業経営者は「いい加減にしろ!」と怒り爆発です。物価上昇率3.6%のインフレ、電力料金も上がるし、その上、政府は冬の暖房費を節約してほしいとお願いしています。そんなことでは生活が大変だと国民が訴えると、政府は補正予算(ガソリン価格やガス代高騰への支援金)でインフレ分の補助金をばらまいてくれるようです。しかし、バラマキと言ってもタダほど高いものはありません。借金は誰かがどこかで帳尻を合わせなければならないのです。失われた30年、凹んだ分を社会全体で穴埋めしてきたので地盤沈下が進みます。国の借金については、2020年以降、コロナ対策や翌年の東京オリンピックで増え続けています。加えてグリーンエネルギーや脱炭素、補正予算やらで「2050年に向けて少なくとも400兆円の増税が見込まれる」と報じられています。こんなことでは国民は政府に骨の髄までしゃぶられ、吸血鬼のような政府だけが太り、民間は痩せ細ります。
 
 政府の借金は国債として市場から調達されます。日銀の役割は重要であり、黒田総裁はインフレ目標2%を掲げてきましたが、この目標が達成された後も量的緩和とゼロ金利を続けています。それは、日本の債務残高が対GDP比で262.5%と、先進国の中で最悪となっているためです。まさに借金を借金で返している状況で、長期金利が上昇すると、国債価格が大幅安となり、調達コストが跳ね上がってしまいます。この事態を避けるために、日銀はイールドカーブコントロールという長期金利上昇を抑制する措置をとっています。ここで気になるのが、日本国債の格下げリスクです。2014年11月に故安倍首相は2015年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを先延ばしにすると表明し、このことから財政悪化が懸念されて、大手格付け機関が一斉に日本国債の格付けを「AA(ダブル・エー)」から「A(シングル・エー)」へ格下げしました。
 
 「何も決められない」岸田総理が増税を国民に納得させることは出来ないでしょう。自民党税制調査会はもはや国民から税金を吸い上げるソ連のノーメンクラツーラ(特権階級)のような存在ですから、日本は信用「格下げ」の罰則を食らうことになりそうです。
 
 今のところ大手格付け機関は日本の格付けを「安定的」としています。しかし、当時アベノミクスで好調だった安倍政権ですら所得税率で不人気になり景気を失速させました。今のこの時期に岸田内閣が増税に傾けば、支持率はさらに低下し、年明け早々退場となりそうです。政治的な混乱と財政悪化が懸念されると、日本の格下げといった由々しき事態になりかねません。では、日本の格付けが現在の「A」から「BBB(トリプル・ビー)」に下がると、どんなふうに“ヤバい”のか?“ヤバい”点をまとめます。
・日本国債の長期金利が上昇し、調達コストが上昇する。
・「カントリーシーリング(日本国内の企業は日本国のソブリン格付けよりも上位の格付けを取れない)」のため、国内企業の社債発行による調達コストが上昇する。
・国内企業が海外で資金調達するコストが上昇する。
・国内機関投資家が保有する円建て債券(円債)の時価が下落する、資産内容の悪化、金融・機関の業績悪化につながる。
・CDS(クレジットデフォルト・スワップ)市場で円債デフォルトリスクが高まり、スプレッドが上昇する。
・日本国債がBBBに格下げされ、日本の危機的財政状況が顕在化した場合、長期金利上昇幅3%、企業の資金調達コスト上昇幅6%がメルクマールとなる(2016年6月7日付三菱UFJリサーチ&コンサルティング「日本国債格下げが日本企業・金融機関に与える影響の考察」)。
 
 このところ日本の社債市場では調達コストが上昇しています。ちょうど電力会社ではLNGなど燃料費高騰の影響で資金調達に迫られており、関西電力、東北電力に次いで、11月にJera社はハイブリッド債(劣後債)発行を予定していました。実際、12月9日に965億円が発行され調達されましたが、当初予定の4000億円よりも少ない金額しか調達できませんでした。日本の債券市場は軟調で、投資家は円債のリスクを警戒しているのです。このように、格下げは、日本の政府、企業などあらゆる発行体の資金調達コストを上昇させ、収益を圧迫します。当然、経済成長にはマイナスです。
 
 幸い日本では、日銀に加え、195兆円規模のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に、3共済年金(国家公務員共済年金、地方公務員共済年金、私学共済年金)、ゆうちょ銀行、かんぽ生命といった世界最大の公的巨大マネーが日本の株や債券を買い支えています。しかし、今後は高齢者に年金が給付されて基金は減っていくのに対して、若年層の人口は減り、賭け金は減りつづけます。団塊の世代が死に絶えると、国民が払い続けてくれる税金も賭け続けてくれる年金も激減していくでしょう。そして、民間を圧迫し続ける政府だけが生き残る・・・これでは日本の持続可能性はゼロに近づきます。日本政府はインバウンドで海外観光客を増やすよりも、自国の能力と資金力のある人材や企業を日本に引き止める策を講じ、日本の生産性を高めるためにカネを回すべきでしょう。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム