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2022-11-08 17:48

「新しい資本主義」より「新しい政治」が必要

中村 仁 元全国紙記者
 政府は先月29日、物価高対策、円安対策などを盛り込んだ一般会計で約29兆円の総合経済対策を決めました。日銀も同じ日に大規模金融緩和を維持することを決め、巨額の赤字国債の発行を支える態勢を続けます。ほとんどの国が金利を引き上げ、財政支出を引き締める方向に転換しているのに、日本だけが世界の大勢に逆行しています。経済常識に反する政策をいつまで続けるのか、財政金融の破綻という結末が待っているのか、世界は注目しているに違いありません。中央銀行としての独立性を失ったばかりか、率先してゼロ金利の死守、際限のない国債買い上げを修正しない日銀は、批判の集中砲火を浴びています。財務省財務官だった黒田氏の先輩、後輩らも黒田批判の声を上げ始めています。こんな展開はこれまで見られませんでした。
 
 財務官の後輩だった篠原尚之氏(前IMF副専務理事)は「金融緩和政策に逆行する為替介入には効果がない」、「政治的に介入をせざると得なかった」、「市場から見ると、ものすごくちぐはぐなことをしている」と、メディアに語っています。為替介入は財務省の所管であるにしても、その原因は、日銀のゼロ金利政策による日米金利差の拡大です。同じく後輩の渡辺博史氏(現国際通貨研究所理事長)は「国際市場で決まる原油、エネルギー価格の上昇について、政府がいつまでも財政資金で低価格を維持するのは正しくない」と批判しました。財政資金の原資は赤字国債であり、その原資を日銀が供給(国債買い取り)しています。黒田氏の先輩の元財務官は「黒田氏の論理はもう破綻している。苦し紛れの弁明、説明を続けているうちに、どうにも一貫性のある言い方ができなくなっている」というのです。黒田総裁は「円安に歯止めをかけたい」としながらも、その一方で「2、3年は金融緩和政策を変えることはない」と発言しました。今回は「必要な次元まで続ける。ただし、いま直ぐ金利の引き上げは考えない」です。急激な円安は容認できないといったり、金利を引き上げないといったり、発言の一貫性を失っています。円安を招いているのが政府・日銀です。介入をするなら金利引き上げとセットが好ましい。
 
 黒田氏は「来年には物価上昇は2%を割ることが確実」として、「デフレ脱却の2%目標」を下回るだろうから金融緩和は続けるというのです。これも矛盾した言い方です。自然体で「2%を割る」のか、財政資金による物価抑制策をはずしたらどうなるのかを説明しなければなりません。岸田首相は「今回の対策によって、物価を1・2%押し下げる」と断言しました。かりに来年の物価上昇が2%を割ったとしても、電気代、都市ガス代の軽減、ガソリン補助金などをやめたとたん、3%台の上昇に逆もどりしてしまいます。そこの説明がない。政権支持率が急落している岸田首相の心境はどうか。この人の思考経路は危険水域に入ってしまったようです。「トップダウンで万全の対応を図る」、「決定過程に関し、政治主導の大局観の発揮を重視した」などは、なんとも違和感にある発言です。「検討ばかりして決められない」、「聞く力より指導力が必要」などと酷評され、支持率低下の一因になっていることを意識したに違いない。「自分は力強いリーダーである」と言いたいために、「トップダウン」、「政治主導の大局観」という言葉が飛び出したのでしょう。
 
 経済対策は雪だるま式に金額が膨張し、一晩で4兆円増の29兆円(民間投資を含めた事業規模は71兆円)となりました。自民党から「25兆円では国難に耐えられない」という声が上がった(日経新聞)。なんで「国難」なのか。こんな無責任さが国民にとっての「国難」なのです。こうした放漫財政、バラマキ予算の財源は赤字国債です。1000兆円を超え、GDP比で260%にも達する国はどこにもない。それを可能にしているのが日銀の国債買い支えで、国債の金利はゼロに近いから、国債発行に歯止めがかからず、「政治主導の大局観」という発言が飛びだす。経済対策には「新しい資本主義の加速」という項目があり、6・7兆円の予算が計上されています。自力で産業の成長力を取り戻すべきなのに、持続可能性が危うい財政金融政策で支える構図になっています。
 
 私は「新しい資本主義」の看板を掲げるより、「新しい政治」を目指すべきだ思います。国政選挙が3年はないのに、支持率が落ちたからいって、大衆迎合的な政策に走るのはやめてもらいたい。このような金融財政政策を続け、結局、国民を「国難」に追い込む政治は危険です。それに歯止めをかけるのが日銀の本来の任務です。それが政府、日銀の共同声明、アベノミクスの始動(2013年)によって、中央銀行としての独立性を失いました。政府側も「規制緩和、構造改革、成長戦略、財政節度の回復」の責任を約束しました。政府は自分のやるべきことに、成果をあげていません。日銀だけに責任を押し付け、29兆円の補正予算を組む。政治とはそんなものなのでしょう。政権が変わったり、首相が代わったりすると、公約などを簡単に破る。政府、日銀の共同声明では、それぞれが果たすべき役割を明記しました。政府は政治の都合で約束を果たさない。日銀だけがやらされる。そんなことは初めから分かり切ったことでした。それなのに共同声明に乗せられた中央銀行は、政治に対する見方が甘かったと言いたい。
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