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2007-09-27 10:38

連載投稿(2)国際派人材育成と「情報滝」現象

池尾愛子  早稲田大学教授
 パリでは、経済協力開発機構(OECD)本部にも立ち寄り、アメリカのS大学の訪問プログラムを傍聴させていただいた。若い博士(名前を覚えられなかったが、傍聴許可に感謝する)が引率する15人の大学院生のために、3人の講師が1時間くらいずつ講義と質疑応答を担当することから構成されたプログラムであった。私としては、OECDが加盟国の政策調整を行う様子や、ロシアを含む5カ国が加盟に向けて調整中であることを聴けてよかった。大学院生たちは、主に欧州連合(EU)の調査をするための3週間の研究旅行の最中で、パリでの活動は1日だけとのことであった。OECD側からみれば、EUと、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が、OECDの枠組みを越えた政策調整の射程圏内に収められていた。OECDの担当者いわく、専門的関心に応じたプログラムを(英語かフランス語で)組めるので、日本からも(国際関係に関心を持つ)大学院生たちをぜひ連れてきてほしいとのことであった。

 9月13日には、東京に戻って、アジア経済研究所(Institute for Developing Economies、IDE)のセミナー「成長するアフリカ――日本と中国の視点」に出席した。中国から専門家を迎え、アフリカとの貿易・投資や外交・援助、中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC、フォカク)についての説明や質問に対する応答などをできる限り聴く、といった姿勢が強く出たセミナーだったといえる。この種の初めての会議としては非常に良かったと思う。しかし、次回以降には、滝水の如く揃っていく中国側の発言・主張に対して、日本側として(個人的なものであれ)ある程度の反論と意見が述べられることを期待したい。このセミナーの中国側参加者は当然、海外経験を積んだ人たちばかりで、OECDとは距離をおきながらも、中国が国際派エリートを着実に育成していることがうかがえた。

 パリでは、困った誤解を解くこともできて安堵している。いわゆる「情報滝」(information cascade)現象に巻き込まれていたのである。ある異端研究グループのトップたちから、私がそのグループのために会議資金を調達するという噂(誤解)が連続する小滝の水の如くに流れ落ちて広がっていたのである。会議の合間に、そのトップや側近たちと話をして、彼らと私の研究関心は対立を含むほど異なり、全く異質な研究課題のために資金調達をすることは不可能である、とはっきり伝えることができ、彼らもようやく理解した。今回の経験から、「情報滝」現象に乗って誤解が伝わると、本人が否定しても、誤解を修正するインセンティブ(誘引)が周囲になかなか働かないこと、もし誰かが会議資金を調達するならば、自分たちもその恩恵に与れる可能性があるので便乗したい人たちまで出てくることがわかった。「情報滝」現象が起こるのは「個人の自由」がある国々だけではないであろうが、そうした国々においては、「個人の自由」を守る強い意思をもつ人々の支援なくしては「情報滝」の弊害を防ぐことはできないであろう。(おわり)
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