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2022-07-08 10:11

自国民困窮を政治の奥義とする政治指導者たち

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 2022年の前半だけで17回のミサイル発射実験を繰り返してきた北朝鮮。そのコストを韓国の専門家が推計したデータが発表された。その推定総額は日本円にして500~815億円に上るという。少々細かくなるが大陸間弾道ミサイルICBM級では一機27億円から40億円するというし、また短距離ミサイルですら一機4~7億円もかかる。それに加えて打ち上げに要する諸かかりも計算に加えるとこういう数値になるのだという。北朝鮮では、昨年の不作で食糧不足が深刻化した。そこでミサイル発射実験の経費をコメやトウモロコシに換算すると、その量は51万~84万トンに相当し、かの国の2021年の推計食糧不足量80万トンと申し合わせたようにぴったり符合する値だという。少々出来過ぎというくらいの数値が並ぶが、この「符合」はあるいは偶然ではなくて意外や意外、金指導部にとって合理的数値なのではないかと、愚民政策の深奥を見たような気持になる。
 
 というのは、「民は依らしむべし、知らしむべからず」という「論語」の教えに従えば、腹が減って耐え難い日常に最低限の食い物が与えられるレベルの「貧困」こそ人民は治世のありがたさがよくわかるのであって、北朝鮮人民にとってゲップの出るほどの「満腹」は量より質のうまいものを食わせろという要求に転化するので、かえって将軍さまのありがたみが感じられなくなる。もはや餓死するかという際に食い物が届けられてこそ、政治のありがたさが五臓六腑に染み渡り、金一族の恩寵が発揮されて見えるのかもしれない。
 
 かの人民にとって、ロケットの打ち上げは、彼らが胃袋で満足すべきごちそうが宇宙空間と日本のEEZの外側の日本海に藻屑と消えていく過剰性の蕩尽にほかならない。贅沢は敵、敵に会わないですむのは「総書記様のおかげです」というわけだが、国家権力とは北朝鮮のそればかりでなく多くの国家権力において五十歩百歩でもある。
 
 こう見てくれば、いま連日巨額の富の乱費をしているウクライナ戦争、わけてもこれを強行したプーチン大統領のロシアにあって、かの国民はどの程度の窮乏まで耐えつつプーチン指導に従っていくのであろうか。ロシア人の胃袋は北朝鮮人民のそれより大きくかつ美味いものの味も知っているであろうから、戦争乱費によって窮乏する食い物の劣化に我慢の限界は高いであろう。さすればどの段階で国民の不満が爆発するか。そろそろ人々の口の端に上ってくる頃であろうが、と筆者は期待して待っているのだが。
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