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2022-05-13 20:17

(連載1)日本政府の予備費とウクライナ支援

倉西 雅子 政治学者
 5月3日付の日経新聞の朝刊一面に、日本国政府の予備費に関する記事が掲載されておりました。コロナ対策を根拠として従来の10倍に予備費を増額し、2年間で3兆7121億円も確保しながら、その3割が使い残しているという内容です。同記事の趣旨は、予備費に対する監視体制の強化を訴えるところにあるのですが、国会での審議・採決を経ずして政府による閣議決定のみで拠出できるため、予備費には、財政民主主義、並びに、議会制民主主義を損ないかねない様々な問題が含まれています。そして、日本国政府によるウクライナ支援費の拠出も、問題点の一つなのではないかと思うのです。
 
 ウクライナ危機にあっては、当初からアメリカのバイデン政権は、ウクライナへの支援を表明してきました。もっとも、アメリカでは、大統領の一存、あるいは、政府の決定でウクライナ支援が決定されるわけではありません。その経緯を見てみますと、3月上旬に、議会において22年度予算が成立するに際して、ウクライナへの支援金として136億ドル(約1兆5千万円)が組み込まれています。同予算額はバイデン大統領の要求をも上回っており、迅速な予算成立には、ウクライナ支援に熱心な超党派議員達の活動があったとされます。その後、5月10には、上下両院での可決、並びに、大統領の署名によりウクライナに対する「武器貸与法(ウクライナ民主化防衛レンドリース法)」が成立するのです。目下、バイデン大統領は、議会に対して追加支援を要請していると報じられていますが、アメリカでは、その形骸化が指摘されつつも、対外的な軍事支援の決定に際しては、議会制民主主義の正当な手続きを踏んでいると言えましょう。
 
 こうしたアメリカでの政策決定過程と比較しますと、日本国政府のウクライナ支援には、危うさを禁じ得ません。何故ならば、日本国のウクライナ支援は、政府の予備費から拠出されているからです。ウクライナ危機に際して、日本国政府もウクライナ支援をいち早く表明し、2月27日には、1億ドル(訳115億円)の緊急人道支援を約しています。同人道支援は、2021年度予算の一般会計予備費から支出されますので、国会は全く関与していないのです。
 
 同人道支援は、日本国政府の説明によりますと、「シェルターや保健・医療、水・衛生、食料など緊急性の高い分野」とされていますが、3月10日には、ウクライナ側からの軍事支援の要請を受ける形で自衛隊の装備品である防弾チョッキとヘルメットの供与を決定しました。(つづく)
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