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2022-03-08 20:54

(連載1)新しい世界秩序の中で、日本はどう生き残るか

大井 幸子 国際金融アナリスト
 ロシアがウクライナに侵攻し、首都キエフの陥落も間近と報道されています。この一件で、第二次世界大戦終結から77年が経ち、「戦後体制」が完全に終わったと感じました。ヤルタ会談では英米ソ連の列強3国が戦後世界の分割を話し合いました。この3国に加え、連合国フランスと中国が1945年に国連の安保理事国(戦勝国)の仲間入りをしました。その一方、日独は敗戦国となりましたが、米ソ冷戦で超大国同士がしのぎを削る裏で、日独の経済は目覚ましい成長を遂げました。21世紀に入ると、中国が香港を手に入れ、米国に次ぐ経済大国として、世界の覇権を目指しています。このように、戦後の敗戦国や貧しかった中国がのし上がり、戦勝国の国力は相対的に低下していきました。英米ロシアが再び自分たちの優位性を確立するために、戦後体制の再構築、世界秩序の仕切り直しを図ろうとするのは当然かもしれません。では、これから世界はどう変化していくのか?この点について、私は地政学上、ある種の必然性があると考えます。
 
 地政学は、置かれた地理的な条件がその国に与える政治的、軍事的、経済的な影響を俯瞰的に研究する学問で、国際関係や軍事戦略などに関わる実務家や政治家にとってその知識は欠かせません。「地理的条件は変わることはない。しかし、外交政策におけるその意味合いは変化しうる」とは、イエール大学国際関係学のスパイクマン教授(1893-1943年)の名言です。スパイクマン教授は第2次大戦後の世界秩序がどのような形になるのかを、大戦中からその必然的な行く末を見据えていました。
 
 スパイクマン教授によれば、世界の紛争は「ハートランド」(ユーラシア大陸)の縁に弧を描く「リムランド」(北西ヨーロッパから中東、インドシナ半島までの東南アジア、中国大陸、ユーラシア大陸東部に至るユーラシアの沿岸地帯)一帯に集中している、リムランドは膨張するハートランドとの紛争、そして「シーパワー」との紛争に必然的に巻き込まれる。この基本理論に沿って、スパイクマン教授は、第二次大戦中から戦後の勢力図を予想し、米国の大戦略を示しました。要約すると、第1に、ドイツが細分化されない限り欧州最大の国家として残る。第2に、アジアでは、日本が戦後長期にわたり米国に二度と脅威を及ぼさないよう対処される。第3に、日本の脅威がなくなり、中国が国内を統一できれば、極東の支配的な国家になる。中国が極東の覇権国家になるには、海上の島国に基地を設ける必要がある 。スパイクマン教授の予言通りに、米ソ冷戦終結後に東西ドイツが統一されて、ドイツはEUの中心国となりました。日本は米国にとって軍事的な脅威ではなくなりました。一方、中国が南沙諸島海上に人工島基地を築き、目下、米国の覇権を揺るがそうとしています。
 
 ウクライナ危機をはじめとする世界の現状を見てみましょう。ユーラシア大陸の「ハートランド」に対し、①欧州側にはNATO軍がロシアと対峙し、②中東ではイスラエルがイランとが対峙し、③極東には開かれた自由なインド太平洋クワッド(インド、日本、豪、米)がユーラシア大陸全体を取り囲みます。最大のリムランドは中国です。「一帯一路」では、陸のシルクロードはロシアに押され、海のシルクロードはシーパワーの連合軍による圧力を受けます。現時点で、世界のメディアはウクライナ危機に集中していますが、地政学の必然から見えてくるのは、英米ロシアによる中国の囲い込みであり、中国がこれ以上覇権国家としてのし上がらないようにすることです。(つづく)
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