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2021-09-13 14:31

フランスの対アフガン状況の受け方

ギブール ドラモット 仏国立東洋言語文化大学(INALCO)准教授
 アメリカがアフガニスタンから脱退していく中で、我が国フランス外交は、現状うまく対応していると言えよう。そもそもフランスはイギリスとインドの関係性において戦略的に重要であったアフガニスタンに、20世紀の初めから関心を寄せてきた。また、フランスにとって、アフガニスタンは昔から貿易においても重要なパートナー国であった。また、フランス国立東洋学大学(Inalco)を卒業し、パシュトゥンが話せる外交官も多く輩出されるなど、フランスのインテリジェンス能力は高いといえる。さらに文化的な関係も少なくなかった。ムジャヒディンのマスード司令官はフランス語がとても堪能であったし、カブールにはフランスの高校もあった。フランスは9・11テロ事件後の戦争に、NATOの加盟国として国際治安支援部隊(ISAF)に参加していたが、イギリス、アメリカより軍隊員の人数が少なかったほか、亡くなった兵士の数も低かった(イギリスは15万人を派兵し、457人の犠牲を出した一方で、フランスは5万人を派兵し、犠牲者は90人であった)。
 
 最近のアフガニスタン状況において、フランスが特に重要視してきたのは人権であり、特に女性を取り巻く状況であった。マクロン仏大統領は8月28日の新聞記者へのインタビューで「タリバン政権とどんな関係を作る前の前提条件一つは人道的活動が完了できることだ」と延べ、「フランスが提供する避難は憲法権であり私たちの義務だ」と主張した。米国のアフガニスタン撤退決定を受け、2600人のアフガニスタン人を含む約2800人を避難させた。すでにフランスのために勤めていたアフガニスタン人1500人も避難させていた。また、8月31日以降もフランス政府は不安定な状況にあるアフガン人がフランスに無事避難できるよう新タリバン政権と交渉を進めていた。その過程ではタリバンと良好な関係にある近隣諸国のカタールとも緊密に連絡をとっていた。フランスとしてはカタールの空港を避難活動の場として活用できればと考えていたようだ。また、マクロン大統領は、新政権が人道支援活動・避難活動において妨害することがないよう、イギリスと連携して首都カブールで人道的活動のための「安全地帯」の設置を提案する決議案を国連安全保障理事会に提出した。この決議案は、ロシアと中国が棄権したにもかかわらず、無事採択された。
 
 他方、フランス国民は2015年1月と11月の自爆テロの経験から、新たなテロ事件の発生を危惧していた。しかし8月28日のカブール空港で自爆テロ事件を引き起こしたのは「イスラム国」であった。タリバンがシャリアに基づいてアフガニスタンを統治しようとしているが、サウジアラビアから西欧をジハッドで崩壊しようとしているサラフィスト・ジハッヂストとは違うと明らかになっている。先進国の人口の安全性へのタリバンの勝利の影響は結局限られているだろう。
 
 ここで今日のアフガニスタン情勢を踏まえ2点ほど私見を述べたい。1点目として、約20年間に渡ってアフガニスタン政権を支えてきたアメリカだが、同国社会において、主にエリート層しか変革することができなかったことで、この戦争の目標、あるいは「勝利」の概念としての意味が問われてしまっている。フランスの社会学者レーモン・アロン(Raymond Aron)が指摘するように、戦争において政治家が「目標」「友人」「敵」などを明確に区別しない場合、武器による勝利が、そのまま最終的な勝利にもなる可能性は極めて低い。すなわち、戦争で「誰をどんな目標で戦っているのか」を明らかにしないままでは、仮に軍事的な勝利を収めても、それは政治的には何一つ利益をもたらさない。米国にとって80年代まで友人であったタリバンが、2001年以降ウサーマ・ビン・ラーディンがタリバンに避難し「敵」となり、その後、2020年にまた友人になれるのであれば、そもそもこの戦争の目標はなんだったのだろうか。
 
 2点目として、将来に向けた地政学レベルでのアメリカの脱退の影響を考えてみたい。フランスは今回のアメリカの脱退決定をあまり評価していない。その理由は女性、芸術家、音楽家といった生命の保証や自由などに対する懸案に加え、アメリカと同盟関係にある国々の動向にも影響を与えることになるからだ。シリアのクルド人を見捨てたときのように20年間支えてきた反タリバン政権を見捨てることでアメリカの国際的な地位を弱めることにもなるだろう。
 
 こうした中、9月16日にアメリカ・イギリス・オーストラリアの首脳がそろって会見し、3か国よる新たな安全保障の枠組みを発足させ、インド太平洋地域での防衛連携を強化すると発表した。残念ながら、この枠組みにフランスと日本は入っていない。これを受けて、モリソン首相は豪仏の潜水艦建造に関する契約を破棄した。バイデン政権が同盟関係を大事にすると言われてきたが、果たしてこの見方は正しいのだろうか。同盟国との国際協力への配慮を見せるだろうとするインド太平洋地域戦略を発表する所の欧州連合はそのバイデン政権の外交をどう受け止めるのだろうか。アメリカとの同盟関係に関わらず自立した防衛政策の誕生を提唱してきたマクロン大統領にとって参考になろう。少なくとも、50年から議論されている欧州連合防衛力への新たなインセンチーブにはなるだろう。
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