国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-02-08 20:24

(連載1)世界の知性21人が問う「国家と民主主義」

中村 仁 元全国紙記者
 新型肺炎コロナの報道ばかりがあふれ、目先のことしか考えない、論じない。それもどうかと思い、近刊の「自由の限界/世界の知性21人が問う国家と民主主義」(中公新書ラクレ)を読みました。示唆に富みます。仏のエマニュエル・トッド、仏のジャック・アタリ、イスラエルのユバル・ハラリ、米のジャレド・ダイアモンド、日本の岩井克人らの各氏が過去、現在、将来を見据え縦横に語っています。読売新聞が掲載したインタビュー記事の書籍化で、先行きが見通せない時代状況にマッチしています。
 
 菅政権が誕生した際、経済学者の竹中平蔵氏は「アーリー・スモール・サクセス(小さくても早期に成功事例を示す)を」と、助言しました。その結果でしょうか、GoToトラベル、ハンコ撤廃、携帯電話料金引き下げなど各論先行の政策を打ちだしました。それに対し「菅首相にはグランド・デザインが欠けている。政治理念が感じられない」という指摘が目立ちました。コロナ対策でも各論を出したり、引っ込めたりの迷走ぶりで、支持率は急落です。
 
 ジャック・アタリ氏の指摘はこうです。「近年、日本の首相に会う度に『指導者に必要なのは歴史の大きな流れをつかみ、20年、30年先を見据える力だと助言してきた。長期戦略を持つことが最優先課題のはずだ』と言ってきた」と。竹中氏とは正反対の助言です。さらにアタリ氏は「かれらの返答は判で押したように『明日、まだ首相でいるかどうか分からない』だった。指導力は発揮されず、日本は未来を台無しにしている」と、酷評します。
 
 皮肉にもコロナ対策の迷走で、菅政権の支持率は30%台まで落ち、まさに「いつまで首相でいられるか」の状況です。コロナ後の経済社会の変化を見越して、どういう国にしていくかという構想がありません。次の問題として、各氏が口をそろえているのは、「自由主義経済、グローバリゼーションの行き過ぎで、経済格差が広がっている」ことです。トッド氏は「世界をグローバル化に引き入れた米国で、グローバル化を告発する大統領(トランプ氏)が誕生した。歴史の大転換だ」と主張します。岩井氏は「世界で最も開かれた民主国家であるはずの米国に暴君のような大統領が登場した。米国型の資本主義と民主主義の必然的な帰結だ」と、断言します。同時に「トランプ氏は政策の矛盾などで、短命に終わる可能性が高い」と予見、バイデン氏に敗れ、その通りになりました。「自由放任主義的な資本主義は金融危機の可能性を増し、所得の格差を広げ、資本主義の正当性を失わせしまった」と、岩井氏。「仏学者のピケティ氏が指摘したように、米国は上位1%の高所得層が全国民所得の20%を得る。世界で群を抜いた不平等国になっていた」とも。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム