国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-11-16 20:42

「フィンランド化」は死語か

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
 昨年11月末に死去した故中曽根康弘元首相(享年101)の出身地である群馬県高崎市で県と市による合同葬が12日、営まれた。式典では山本一太知事が「外交で日本の地位を向上させた」とし「戦後日本を代表する名宰相」と式辞を述べたという。確かに国際政治学の泰斗H.キッシンジャー博士に学び、その弟子である桃井眞氏をブレーンとした中曽根元首相の評価は高いと言えよう。しかし、中曽根元首相には失言もあり、その典型的なケースが「フィンランド化」(フィンランダイゼーション)という言葉であった。今を遡る37年前の1983年6月3日、参議院選挙の街頭演説で中曽根首相(当時)は「日本は何もしないでいるとフィンランドのようにソ連のお情けをこうような国になってしまう」、「うっかり手を出したらひどい目にあうという状態にしておかないと平和は守れない」と述べ、在日フィンランド大使館から注意喚起を受けたのだ。

 翌1984年、陸上自衛隊幹部候補生学校に入校した小生は戦史の授業で「ソ連・フィンランド戦争」を学ぶ機会を得た。1939年の独ソ不可侵条約の締結によって、ソ連はフィンランドを勢力範囲とすることを認められ、スターリンは領土併合を目論んで侵攻を始めた。しかし、フィンランド全土をあげた頑強な抵抗(特に卓越したスキー活用・狩猟技術によるモッティ<包囲>戦法)にソ連軍は苦しめられ、10%の国土割譲を条件にソ連とフィンランドは講和した。やがて1948年、フィンランドは「友好協力相互援助条約」をソ連と締結し、独立及び議会民主制・資本主義の維持を引き換えにソ連に協力することになった。これが「フィンランド化」の実態である。果たしてフィンランドはソ連の忠実な属国だったのか、あるいは徹底的に抗戦して名誉ある独立を保った国家だったのか、小生は後者であったと考える。

 21世紀に入った現在、ソ連という国家はもう存在しないし、米ソ冷戦も終結した。フィンランドはEU加盟を果たし親日国でもある。しかし、「フィンランド化」という言葉は死語ではない。11日付の拙稿で指摘したように、「QUAD」という概念とともに、国際情勢認識における日本及び日本人の「盲点」を浮き彫りにするキーワードであると思う。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム