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2020-02-14 00:20

新型肺炎に関する中国の対応四論

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
 2月11日、世界保健機関(WHO)によって「COVID-19」と命名された中国の新型肺炎をめぐる動きは速い。日々情勢が変化し、その対応如何によって情勢がまた動く。こうした浮動状況下の考察は難しい。しかし、拙稿「再々論」で指摘した、2003年SARS流行時の「5つのP」(Phobia恐れ~Panic狼狽~Paranoia妄想~Politics政治~PTSDトラウマ後ストレス症候群)説が、今回の新型肺炎をめぐる状況にも適応可能ではないか、特に中国では既に「Politics」(政治)の段階に入っているのではないかということを裏打ちする事象が起きているので紹介したい。

2 3回目の新型肺炎対策会議開催
 2月12日、中国の最高意思決定機関である共産党中央政治局常務委員会は新型肺炎対策会議を開いた。これは旧正月初日の1月25日、旧正月休暇明けの2月3日に続くものであり、10日の習近平国家主席による北京視察を受けた会議であった。同会議を主催した習近平総書記は「厳しい努力によって情勢には積極的な変化があり、防疫活動には成果が出ている」としながら「防疫活動は今や最重要の、要の段階にあり手を抜いてはならない」と強調した。同会議では従来の防疫活動徹底を強調する一方、経済・社会活動との連携も打ち出され「防疫活動と経済・社会の発展に併せて対処することは大きな戦いであり、大きなテストでもある」と指摘された。そして、同会議を報道する記事は最後に「その他事項も研究した」と付け加えた。「その他事項」とは何であったのか。

3 湖北省指導部の調整
 新華社通信の報道によると、対策会議の翌日2月13日、湖北省は指導幹部会議を開き、同会議の席上、呉玉良中央組織部副部長が「応勇同志の湖北省党委員会書記就任」という中央の決定を伝えた。わずか3日前の10日、北京視察中の習近平に対し湖北省の状況報告を行っていた現場のトップ蒋超良の更迭が明らかとなったのだ。今回の人事は「大局から発し、防疫活動の必要性と湖北省指導層の現実に基づき、全般的な考慮を経て慎重に研究して中央が決定したものである」とも報道された。そして、この人事と同時に武漢市のトップ馬国強も更迭され、王忠林同志の武漢市党委員会書記就任も発表された。これは言わば、党中央が主導して現地の防疫活動を主管していた「ツートップ」が一気に詰め腹を切らされたことになる。防疫活動がまだ行われている最中の、突然の人事異動によって現場の各種措置の継続性や安定性に懸念はないのか。現在までのところ、習近平ら中央指導部にはないのだろう。湖北省党委員会書記に就任した応勇は上海市長から異動してきたが、習近平がかつてトップ(党委員会書記)を務めた浙江省の公安、司法の要職に就いていた「習近平一派」であると思われるからだ。そして「継続性や安定性」からすれば、「習近平一派」とされる王暁東湖北省長と周先旺武漢市長は現職に留まっていることからして何ら問題はないと見なしてるのであろう。他方、今回武漢市のトップに就いた王忠林は山東省から異動してきた幹部であり、その背景等は不明である。

4 軍の動向
 2月13日の新華社通信の報道によると、習近平中央軍事委員会主席の承認を経て人民解放軍は、医者や看護師2,600人を武漢市に増派した。その母体は陸軍、海軍、空軍、ロケット軍、戦略支援部隊、聯勤保障部隊、武装警察部隊なに所属する多くの医療施設である。当初派遣した1,400人の要員と合わせて軍は総勢4,000人で現場対応に当たることになったのである。拙稿の「再々論」で指摘した軍の存在感の無さは第一線の医療現場では異なるが、今回陸海空軍等の軍種から要員が派遣されたことから、今後は中央軍事委員会メンバーや首長(司令員、政治委員)の現場視察はあるのだろうか、引き続き注目していく必要がある。
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