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2020-02-12 05:20

新型肺炎に関する中国の対応三論

松本 修 国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 習近平、北京市内を視察
 2月10日、中国のトップである習近平国家主席は、蔡奇北京市党委員会書記と陳吉寧北京市長の案内で北京市内を視察した。新型肺炎に関し、習主席の現場視察が報じられたのは初めてであるが、それは「最前線」の湖北省武漢市ではなく首都・北京市であった。習氏は新型肺炎の「拡散蔓延の勢いを抑制するための人民戦争、全体戦争、阻止戦争に勝利しなければならない」と強調し、新たな「三戦」への対応を打ち出し、中国全土に檄を飛ばしたのである。そして、今回の視察で打ち出された要求は新たな「三戦」対応を含め、過去2回の拙稿で言及した1月25日、2月3日に続く新たなものとされた。その中身を中国メディアの報道等から確認してみよう。

(1)北京地壇医院における要求
 首都医科大学付属の地壇医院を訪れた習近平は先ず、同医院に設置された長距離診療センターのTV画面を通じて、新型肺炎患者への対応に当たる武漢市の金銀壇医院、協和医院、火神山医院の医療関係者、人民解放軍幹部等を激励した。そして習氏は、この長距離医療センターの設備を使ってTV会議を行った。2月6日から湖北省に派遣されていた中央指導組組長の孫春蘭副総理(女性)及び現地トップの蒋超良湖北省党委員会書記の状況報告を聴取した習氏は「武漢は英雄の都市であり、湖北と武漢の人民は英雄の人民である」と讃える一方、「湖北と武漢が防疫の要で決戦の地である」「武漢が勝利すれば湖北が勝利する、湖北が勝利すれば全国が勝利する」とし、あくまで現地の防疫活動が優先順位のトップにあると強調した。

(2)北京朝陽区疾病予防管理センターにおける要求
 地壇医院の訪問を終えた習近平は、北京朝陽区の疾病予防管理センターを訪れ「今回の疾病状況は、全国各レベルの疾病管理センターの応急処置能力をテストした」とし「全国の疾病管理システム建設を根本的に行わなければばらない」と指摘した。そして習氏は、同センターで会議を開き北京市の状況報告を聴取したのである。会議の席上、習氏は「首都として北京は防疫活動を行う責任は重大であり、決して手を緩めてはならない」とし、前項の要求とは一見矛盾する内容であるが、今後の「首都防衛」を重視する要求も行った。

2 2003年「重症急性呼吸器症候群」(SARS)流行時の「5つのP」
 2月1日晩のTBS報道番組「新・情報7daysニュースキャスター」で紹介された、勝田吉彰関西福祉大学教授のSARS流行時の心理社会的影響を表わす「5つのP」説がある。それは先ず「Phobia」(恐れ)に始まり「Panic」(狼狽)が起こると、次は「Paranoia」(妄想)が社会に醸成される。やがて「Politics」(政治)の動きが始まり、「PTSD」(トラウマ後のストレス症候群)に囚われる状況が来るというものである。些か乱暴な指摘かもしれないが、習近平は既に「Politics」(政治)を意識して行動している可能性がある。先ず拙稿の「再論」で指摘した、中央防疫工作指導小組入りした蔡奇北京市党委員会書記の存在である。蔡書記は習近平が浙江省トップ(党委員会書記)を務めていた時の部下であり「習近平一派」であるが、今回の首都・北京視察を計画して「首都防衛」を内外に印象付けるための要員であったのだ。次に現地の湖北省に対し、政治的なてこ入れ、人事異動が行われている。2月に入って中央の国家衛生健康委員会副主任から湖北省指導部に異動した王賀勝(医療行政の専門家とされる)は10日晩、前任者の更迭によって同省の衛生健康委員会主任に就任した。香港情報によれば今後、湖北省省長など指導部の更なる人事交代も噂されているという。ちなみに03年当時、SARS対応への遅れを理由に「更迭」されたのは孟学農北京市長と、江沢民の主治医を務めた張文康衛生部長であった。

3 疑問点
 習近平の視察動向が報道される一方、人民解放軍を主管する中央軍事委員会の副主席2名、同委員を務める国防部長(副総理級の権限がある国務委員兼務)及び統合参謀長、政治工作部主任、規律検査委員会書記の4名の動向が1月の旧正月祝賀会への出席以来全く報道されていない。さらに、湖北省武漢市など第一線に医者・看護師など大量の軍人が投入されながら、その指導管理を担当する後勤保障部の首脳の動きも不明である。これら軍要人の存在感の無さは、中央防疫工作指導小組内の軍人の不在という事実とともに注目すべき事象であると考える。
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